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滅びかけた貧困村から始まった教育革命が、やがて世界文明そのものを変えるまでの物語  作者: 慈架太子


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114話 敵国利用発覚

朝。


東部村落連合中央会議場。


重い空気が流れていた。


アリアが持ち込んだ資料。


百年以上に及ぶ研究記録。


その分析は国家全体を揺るがしていた。


農業。


医療。


教育。


戦争。


人口。


物流。


様々な知識が蓄積されていた。


その中でも一冊の資料が問題だった。


セリナが机に叩きつける。


「見つけたわ」


会議室にいた全員が顔を上げる。


ロバート。


エミリー。


ソフィア。


カタリナ。


トミー。


マイケル。


そしてケルナイン。


セリナは険しい顔だった。


「何が見つかった?」


ロバートが尋ねる。


セリナは資料を広げる。


そこには巨大な地図。


周辺諸国の勢力図。


交易路。


人口分布。


軍事拠点。


魔物発生地域。


全てが記載されていた。


そして赤い線。


一本の線が東部村落連合へ伸びている。


「利用されていた」


静かな言葉だった。


全員の表情が変わる。


「誰に?」


エミリーが問う。


セリナは答えた。


「キンペイ帝国」


空気が凍った。


敵国。


人身売買。


奴隷商。


盗賊団。


傭兵崩れ。


魔物災害。


その全てを裏で操っていた国家。


アリアが静かに頷く。


「私も確認した」


「間違いない」


トミーが資料を覗き込む。


「何を利用されてたんだ?」


セリナは指を地図へ向ける。


「人材」


その一言だった。


意味が分からない。


皆が首を傾げる。


アリアが説明する。


「東部は昔から貧しかった」


「病が多かった」


「税が重かった」


「教育が無かった」


全員が知っている。


かつての現実だ。


「だから優秀な人間は外へ逃げた」


アリアは続ける。


「職人」


「教師」


「医者」


「商人」


「研究者」


「魔法使い」


「才能ある若者」


全て。


流出していた。


セリナが資料を開く。


数字が並ぶ。


二十年前。


三十年前。


五十年前。


百年前。


同じ傾向が続いている。


「優秀な人材が消える」


「行方不明になる」


「他国へ移住する」


「奴隷になる」


「徴兵される」


「暗殺される」


全員が黙る。


アリアは言った。


「偶然だと思っていた」


「違った」


資料を開く。


古い文書。


敵国の記録だった。


「キンペイ帝国は知っていた」


「人材こそ国家だと」


会議室が静まり返る。


ケルナインだけが無言だった。


アリアは続ける。


「だから奪った」


「教師を」


「職人を」


「研究者を」


「技術者を」


「未来を」


その言葉にマイケルが拳を握る。


「そんな……」


「事実よ」


アリアは即答した。


感情ではない。


記録だった。


百年以上続く国家戦略。


敵国は理解していた。


畑を焼くより効果的な方法。


城を落とすより効果的な方法。


人材を奪う。


それだけで国家は衰退する。


逆に人材を集めれば国家は強くなる。


だからキンペイ帝国は行った。


奴隷商。


誘拐。


徴兵。


強制移住。


教育独占。


情報統制。


全て繋がった。


ロバートが唸る。


「つまり」


「今までの盗賊団も」


「奴隷商も」


セリナが頷く。


「利用されていた」


「一部は直接支援されている」


ソフィアが机を叩いた。


「許せないわね」


鬼人の目が怒りで燃える。


カタリナも珍しく真顔だった。


「戦場で会う連中が妙に装備良かった理由か」


「そういうこと」


セリナが答える。


盗賊のくせに高級武器。


奴隷商のくせに軍用魔道具。


不自然だった。


全て説明がつく。


背後に国家がいた。


アリアはさらに資料を開く。


そこには恐ろしい数字。


「この百年」


「東部地域から消えた人材」


「推定二十万人以上」


誰も声を出せない。


二十万人。


国家規模だ。


教師。


職人。


研究者。


農業指導者。


医療技術者。


全て奪われた。


だから東部は貧しかった。


だから病が蔓延した。


だから教育が育たなかった。


だから村が滅んだ。


トミーが呟く。


「人を殺すより酷いな」


アリアは頷く。


「そうね」


「未来を殺していた」


それが真実だった。


農業革命は起きない。


紡織産業も育たない。


病も治らない。


教育も広がらない。


なぜなら教える人間がいない。


育てる人間がいない。


国家が意図的に消したからだ。


その時だった。


ずっと黙っていたケルナインが口を開く。


「だから教育を嫌ったのか」


全員が見る。


ケルナインは資料を眺めていた。


「教師が増えると困る」


「職人が増えると困る」


「研究者が増えると困る」


「人材が育つと困る」


静かな声だった。


だが全員が理解する。


敵国の恐怖。


東部村落連合は真逆だった。


教師六万人。


教導スキル四万人。


人口八万五千。


魔法覚醒率百パーセント。


人材製造国家。


敵国から見れば悪夢だった。


アリアが言う。


「だから魔女事件が起きた」


会議室が静まる。


「私を利用したのね」


「そう」


アリア自身も理解した。


彼女は研究者だった。


知識を持っていた。


教育を広めていた。


だから邪魔だった。


だから魔女にされた。


だから追放された。


だから利用された。


セリナが資料を閉じる。


「全て繋がった」


敵国。


魔女事件。


盗賊。


奴隷商。


人材流出。


教育弾圧。


全て一本の線になる。


アリアは笑った。


苦い笑顔だった。


「皮肉ね」


「私は研究していた」


「人材が国家を作ると」


「そして敵国も同じ結論だった」


誰も否定できない。


結論は同じ。


方法が違う。


ケルナインは育てる。


敵国は奪う。


ケルナインは教える。


敵国は支配する。


ケルナインは自立させる。


敵国は依存させる。


真逆だった。


ロバートが立ち上がる。


「ならやることは決まってる」


全員が見る。


魔族の将軍は力強く笑った。


「もっと育てる」


その一言だった。


会議室に笑いが広がる。


その通りだ。


敵国が恐れるもの。


それは教師。


研究者。


職人。


農民。


人材。


なら増やせばいい。


教育を広げればいい。


トミーが笑う。


「教師十万人にするか」


マイケルも笑った。


「学校増やしましょう」


エルナも頷く。


「孤児院も増やします」


セリナも笑う。


「研究所も必要ね」


アリアは驚いた。


普通なら恐れる。


敵国の陰謀を知れば怯える。


だが違った。


この国家は前へ進む。


止まらない。


それが東部村落連合だった。


ケルナインは窓の外を見る。


畑がある。


学校がある。


工房がある。


治療院がある。


子供達がいる。


教師達がいる。


職人達がいる。


未来がある。


そして静かに言った。


「敵が正しいなら」


全員が耳を傾ける。


「もっと増やせばいい」


短い言葉だった。


だが力強かった。


教育を。


知識を。


技術を。


人材を。


敵国が恐れるなら。


それこそが正しい道だ。


会議室にいた全員が確信する。


キンペイ帝国との戦いは始まっている。


だが戦場は剣だけではない。


畑だ。


学校だ。


工房だ。


研究所だ。


教師達の教室だ。


そして東部村落連合にはそれがある。


かつて貧困村だった土地は。


今や人材を生み出す国家となっていた。


敵国利用発覚。


それは危機ではなかった。


自分達が正しい方向へ進んでいる証明だったのである。







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