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滅びかけた貧困村から始まった教育革命が、やがて世界文明そのものを変えるまでの物語  作者: 慈架太子


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110話 魔女討伐隊

キンペイ帝国。


その存在が判明した翌日。


東部村落連合は慌ただしく動いていた。


毒事件。


襲撃事件。


そして謎の魔女。


問題が一度に押し寄せていた。


会議室。


エミリーが腕を組む。


「また現れた」


狼獣人の耳が動く。


「今度はリーフ村の北だ」


ミシェルも頷く。


「索敵部隊も確認しました」


「間違いなく同一人物です」


会議室には緊張が漂う。


銀髪。


黒いローブ。


高位魔法使い。


目的不明。


敵か味方かも分からない。


それが最も危険だった。


セリナが地図を広げる。


「出現地点は三か所」


「アルナ村」


「リーフ村」


「ストーン村」


赤い印が付けられる。


エミリーが眉をひそめた。


「全部重要拠点じゃないか」


「そうです」


セリナは頷く。


「偶然とは思えません」


ロバートが口を開く。


「討伐隊を出すか」


静かに全員を見る。


その言葉に反対する者はいない。


未知は危険だ。


調査は必要だった。


ケルナインは相変わらず黙っている。


指示は出さない。


育った者達が判断する。


それが今の連合だった。


「討伐隊を編成します」


ロバートが決断した。


隊長。


エミリー。


副長。


リーヴ。


索敵担当。


ミシェル。


情報担当。


セリナ。


前衛。


ソフィア。


カタリナ。


ガイル。


後衛。


リリー。


治療担当。


マイケル。


総勢五十名。


連合最精鋭だった。


翌朝。


討伐隊は出発した。


目的は討伐。


同時に調査。


相手の正体を探る。


森は深かった。


かつて盗賊達が潜んでいた地域。


今では連合の巡回路になっている。


「反応は?」


エミリーが聞く。


ミシェルが目を閉じる。


風属性。


光属性。


超能力。


索敵を重ねる。


「前方三キロ」


「反応一つ」


「隠れる気がありません」


全員が顔を見合わせる。


普通ではない。


待ち伏せなら隠れる。


逃げるなら移動する。


相手は堂々としていた。


ソフィアが笑う。


「面白いじゃないか」


巨大な斧槍を担ぐ。


カタリナも嬉しそうだった。


「久しぶりに強そうな相手だな」


戦闘狂の血が騒ぐ。


やがて森が開けた。


小さな湖。


そのほとり。


魔女はいた。


黒いローブ。


銀髪。


若い女。


美しかった。


年齢は二十代前半ほど。


しかし目だけが異様だった。


長い年月を見てきた者の目。


エミリーが前に出る。


「動くな」


魔女は微笑む。


「やっと来たわね」


落ち着いていた。


まるで待っていたかのように。


ソフィアが構える。


カタリナも武器を向ける。


だが。


魔女は動かない。


敵意もない。


殺気もない。


むしろ。


少し嬉しそうだった。


「あなた達」


「強くなったのね」


意味不明な言葉。


エミリーが眉をひそめる。


「何を知ってる」


魔女は答えない。


代わりに空を見上げた。


「来るわ」


その瞬間だった。


ミシェルの顔色が変わる。


「上です!」


全員が空を見る。


巨大な影。


飛竜だった。


さらに。


二体。


三体。


四体。


計六体。


高位魔物。


ワイバーン。


森が震える。


エミリーが叫ぶ。


「迎撃!」


戦闘が始まった。


ワイバーンが急降下する。


風刃。


毒爪。


凶悪な魔物。


しかし。


今の連合は昔とは違う。


リリーが弓を引く。


風属性。


ウインドバレット。


矢が飛ぶ。


一体の目を貫く。


ガイルが前へ出る。


ストーンバレット。


巨大な岩弾が飛ぶ。


二体目が墜落。


ソフィアが跳んだ。


身体強化。


筋肉強化。


ハルバートが閃く。


首が飛ぶ。


三体目撃破。


カタリナも続く。


グレイブが旋回。


風と土の複合技。


四体目を切断。


残る二体。


ロバートが指揮する。


「囲め!」


隊員達が動く。


連携。


統率。


教育。


積み重ねてきた成果。


最後の二体も数分で沈んだ。


戦闘終了。


圧勝だった。


かつて村を滅ぼした存在。


それを今は訓練された村人達が倒している。


環境が人を育てる。


その証明だった。


しかし。


皆が驚いたのはその後だった。


魔女が一歩も動いていない。


逃げない。


攻撃もしない。


ただ見ていた。


エミリーが近付く。


「なぜ教えた」


魔女は笑う。


「死なれたら困るから」


意味不明だった。


セリナが前へ出る。


「あなたの目的は何ですか」


初めて魔女の表情が変わる。


悲しそうな顔だった。


「目的……」


長い沈黙。


そして。


小さく呟く。


「約束よ」


「約束?」


「昔した約束」


全員が顔を見合わせる。


意味が分からない。


セリナがさらに問う。


「誰との」


魔女は答えない。


代わりに。


ケルナインの名前を口にした。


「ケルナイン」


空気が凍る。


全員が固まる。


なぜ知っている。


ケルナインは無名の旅人。


少なくとも表向きは。


魔女は続けた。


「やっぱり似てる」


「本当に」


「よく似てる」


その目は。


ケルナイン本人ではなく。


別の誰かを見ているようだった。


セリナの思考が回る。


可能性。


推測。


仮説。


一つだけ見えてきた。


この女は。


ケルナインを知っている。


あるいは。


ケルナインによく似た誰かを。


魔女は湖へ向かう。


誰も止められない。


恐ろしく自然だった。


そして。


去り際。


振り返った。


「キンペイ帝国は動く」


全員が息を呑む。


「次はもっと大きい」


「だから急ぎなさい」


「人を育てなさい」


「時間がない」


その言葉を残し。


魔女は消えた。


転移魔法。


いや。


それ以上。


空間そのものが消えたような消失。


ミシェルですら追えない。


静寂。


誰も喋らない。


やがてエミリーが呟く。


「何者なんだ」


答えられる者はいない。


しかし。


収穫はあった。


魔女は敵意を見せなかった。


キンペイ帝国を知っている。


そして。


ケルナインに関係している可能性が高い。


完全な謎ではなくなった。


少しだけ。


正体へ近付いた。


その頃。


連合本部。


ケルナインは空を見ていた。


風が吹く。


遠く。


誰にも見えない場所で。


銀髪の魔女も同じ空を見上げていた。


「まだ思い出さないのね」


寂しそうに笑う。


そして小さく呟く。


「それでもいい」


「今度こそ」


「失敗させないから」


彼女の言葉を聞く者はいなかった。


ただ一つだけ確かなことがある。


魔女は敵ではない。


しかし。


味方とも言い切れない。


東部村落連合は。


さらに大きな謎へ足を踏み入れていた。







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