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滅びかけた貧困村から始まった教育革命が、やがて世界文明そのものを変えるまでの物語  作者: 慈架太子


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109話 毒事件

朝だった。


東部村落連合。


リーフ村。


昨日の襲撃戦の後始末は順調に進んでいた。


捕虜は隔離施設へ収容。


死体は埋葬。


武器は回収。


物資は仕分け。


全てが訓練通りに進む。


かつての貧困村では考えられない光景だった。


農業革命によって食料は溢れ、


紡織産業によって衣服は行き渡り、


教育によって人材が育った。


環境が人を育てる。


それが東部村落連合の常識だった。


その日の昼。


事件は起きた。


治療院。


エルナが患者を診察していた。


突然だった。


若い男が倒れた。


「ぐっ……!」


口から泡を吹く。


全身が痙攣する。


近くにいた人々が悲鳴を上げる。


「患者さん!」


エルナが駆け寄る。


その瞬間。


さらに二人。


三人。


次々と倒れていく。


異常だった。


病ではない。


伝染でもない。


発症が早すぎる。


エルナの顔色が変わる。


「マイケル先生を!」


鐘が鳴る。


緊急事態。


連合全体へ通達される。


マイケルは転移魔法で到着した。


患者を見る。


鑑定発動。


そして即座に答えが出た。


「毒です」


周囲が凍り付く。


「毒……?」


「はい」


「しかも人工毒」


「自然発生ではありません」


空気が変わった。


事故ではない。


事件だった。


誰かがやった。


エルナが患者の手を握る。


マイケルは光属性魔法を展開した。


浄化。


治癒。


魔力循環。


体内の毒を排出する。


さらに超能力。


ピュリフィケーション。


毒素を精製し分離。


患者の容態が安定する。


しかし。


マイケルの顔は厳しい。


「量が多い」


「狙って入れられています」


エルナが頷く。


「食事ですか?」


「可能性が高いです」


すぐに調査が始まった。


セリナ。


トミー。


ミシェル。


調査の専門家達が動く。


物流記録。


倉庫。


炊き出し。


食堂。


全て洗い直される。


トミーが帳簿を見る。


物流特化スキル。


在庫。


流通。


原価。


相場。


異常を探す。


数時間後。


答えは出た。


「食塩だ」


トミーが言った。


「塩?」


セリナが眉を上げる。


トミーは頷く。


「一部だけ仕入れ経路が違う」


「記録が不自然だ」


「誰かが混ぜてる」


すぐに回収が始まる。


リーン。


グラン。


バルド。


職人達も協力する。


精製。


鑑定。


浄化。


そして判明した。


猛毒。


少量でも人を殺せる。


完全な殺意だった。


怒りが広がる。


村人達は拳を握る。


「許せない」


「子供も食べてたぞ」


「病人もいた」


しかし暴走する者はいない。


教育されている。


怒りはあっても理性がある。


それが今の連合だった。


その頃。


捕虜収容所。


セリナが訪れていた。


目の前には傭兵団長バルザック。


昨日まで威張っていた男。


今は拘束されている。


「毒を入れたのは誰ですか」


冷静な声。


バルザックは笑う。


「知らねぇな」


嘘だった。


セリナは理解している。


超能力。


念視。


サイコメトリー。


捕虜の装備から記憶を読む。


断片が見える。


黒い旗。


黒い城。


巨大な軍勢。


処刑台。


奴隷市場。


そして。


見慣れぬ紋章。


セリナの表情が変わる。


「なるほど」


バルザックが顔をしかめる。


「何だ」


「もう分かりました」


彼女は立ち上がる。


必要な情報は取れた。


その夜。


緊急会議。


連合の主要人物が集まる。


エミリー。


ロバート。


トミー。


マイケル。


エルナ。


エレノア侯爵。


そしてケルナイン。


セリナが資料を並べた。


ソートグラフィー。


念写。


記憶を映像化する。


会議室に映像が浮かぶ。


全員が息を呑む。


巨大な城塞。


無数の兵士。


奴隷達。


処刑場。


焼かれる村。


飢える民。


子供の泣き声。


地獄だった。


「何ですかこれは」


エミリーが低く言う。


セリナが答える。


「国家です」


静寂。


誰も喋らない。


「今回の傭兵達は」


「単なる盗賊ではありません」


「国家の支援を受けています」


会議室が凍る。


ロバートが腕を組む。


「つまり」


「敵は国か」


「そうです」


セリナは頷いた。


映像を切り替える。


巨大な国土。


要塞都市。


軍団。


奴隷商人。


税収。


兵站。


組織。


全てが映る。


「国名」


「キンペイ帝国」


その名が響く。


初めて現れた明確な敵。


盗賊ではない。


傭兵団でもない。


国家だった。


エレノア侯爵が目を閉じる。


「聞いたことがあります」


「北方の圧政国家」


「民を家畜のように扱う国です」


会議室が重くなる。


セリナは続けた。


「周辺国家を吸収」


「奴隷化」


「略奪」


「徴発」


「強制労働」


「反抗者は処刑」


誰も否定できない。


映像が証明している。


トミーが小さく言う。


「だから村を襲ったのか」


「ええ」


「連合が邪魔なんです」


それは当然だった。


東部村落連合は成功している。


貧困村を豊かにした。


病を克服した。


農業革命を起こした。


紡織産業を育てた。


教育を普及させた。


奴隷に頼らない社会を作った。


キンペイ帝国にとって最悪の存在だった。


成功例は伝染する。


民は知ってしまう。


自分達も豊かになれると。


それを独裁者達は恐れる。


ケルナインは静かに映像を見る。


何も言わない。


会議室の全員が彼を見る。


だが彼は指示を出さない。


いつも通りだった。


代わりにロバートが立ち上がる。


将軍スキル。


統率者。


彼は言った。


「やることは同じだ」


全員が見る。


「守る」


「育てる」


「学ぶ」


「それだけだ」


シンプルな言葉。


しかし全員が頷いた。


敵が国でも同じ。


環境が人を育てる。


それが連合の信念だった。


会議が終わる。


夜。


ケルナインは一人で外へ出る。


星空。


静かな風。


その時だった。


遠くの丘。


黒いローブ。


銀髪。


あの魔女。


再び立っていた。


月明かりに照らされる。


そして小さく笑う。


「ついに見つけた」


ケルナインは何も言わない。


魔女も近付かない。


互いに距離を保つ。


それでも。


確かなことが一つあった。


盗賊の時代は終わった。


次に来るのは国家との戦い。


そして謎の魔女。


東部村落連合は。


新たな時代へ足を踏み入れていた。







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