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滅びかけた貧困村から始まった教育革命が、やがて世界文明そのものを変えるまでの物語  作者: 慈架太子


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106話 呪い事件

東部村落連合は発展していた。


農業革命。


教育革命。


紡織産業。


治療院。


交易路。


かつて貧困と病に苦しんでいた地域は、人が集まり、人が育つ土地へ変わっていた。


だからこそ。


新しい問題が現れた。


それは剣で斬れない。


畑も耕せない。


力だけでは解決できない。


呪いだった。


最初の報告はアルナ村から届いた。


連合中央会議所。


セリナが資料を広げる。


「発症者二十七名」


会議室が静かになる。


エミリーが眉をひそめた。


「病気か?」


「違います」


セリナは首を振った。


「治療魔法が効きません」


「解毒も無効」


「浄化も反応なし」


ロバートが腕を組む。


「症状は」


「悪夢」


「睡眠障害」


「魔力低下」


「精神不安」


「原因不明」


普通なら病だと思う。


しかし違った。


マイケルも報告書を見る。


「患者全員に共通点があります」


「何だ?」


「同じ井戸を利用しています」


会議室の空気が変わった。


病なら伝染経路がある。


呪いにも起点がある。


ケルナインは黙って資料を眺めていた。


相変わらず何も言わない。


考えている。


その様子を見ていたセリナが続けた。


「既に索敵隊を派遣済みです」


「調査を開始しています」


会議はそこで終わった。


翌日。


アルナ村。


索敵教師ミシェル率いる調査隊が到着した。


ミシェル。


マイケル。


エルナ。


索敵部隊二十名。


調査専門部隊だった。


「患者を見せてください」


村長が案内する。


治療院。


そこには衰弱した村人達がいた。


重病ではない。


死にそうでもない。


しかし異常だった。


眠れない。


力が出ない。


気力が湧かない。


毎晩同じ夢を見る。


「黒い影が井戸から出てくるんです」


老人が震える。


別の女性も言った。


「毎晩です」


「毎晩見ます」


マイケルが鑑定を発動した。


視界に情報が流れる。


病気ではない。


毒でもない。


魔物でもない。


表示された文字。


【呪詛残滓】


マイケルの表情が変わる。


「呪いです」


周囲がざわつく。


呪い。


珍しい。


存在は知られている。


しかし普通の人間は扱えない。


高度な闇属性技術だった。


ミシェルが井戸へ向かった。


周囲を索敵する。


風属性探索。


光属性探索。


念聴。


遠隔透視。


様々な能力が展開される。


しかし見つからない。


そこで超能力を使う。


サイコメトリー。


物体に残る記憶を読む能力。


ミシェルは井戸の縁へ手を置いた。


瞬間。


映像が流れ込む。


夜。


黒いローブ。


誰かが何かを投げ込む。


闇色の石。


呪術媒体。


映像はそこで終わった。


「犯人がいます」


村人達が驚く。


ミシェルは冷静だった。


「偶然ではありません」


「誰かが意図的にやっています」


その日の夜。


調査隊は張り込みを行った。


索敵網が展開される。


風属性探索。


光属性探索。


念話網。


遠隔透視。


完全監視体制だった。


深夜。


ミシェルの耳が動く。


「来た」


黒い影。


森から現れる。


ローブ姿。


井戸へ近づく。


右手に黒い石。


その瞬間。


「確保」


風の縄。


土の拘束。


影の縛鎖。


一瞬だった。


男は地面へ倒された。


逃げられない。


調査隊は強い。


それ以上に。


教育されていた。


男はすぐ捕縛された。


翌日。


尋問が始まる。


セリナも到着していた。


ダークエルフの瞳が男を見る。


「誰の命令」


男は黙る。


しかし無駄だった。


連合には調査技術がある。


ポストコグニション。


過去視。


サイコメトリー。


残留思念調査。


嘘が通用しない。


やがて真実が判明した。


周辺で活動していた奴隷商残党。


彼らは連合を憎んでいた。


理由は単純。


商売にならない。


人が育つ。


治安が良くなる。


村が自立する。


奴隷が減る。


だから困る。


そこで混乱を起こそうとした。


病を流行らせるのは難しい。


食料を奪うのも難しい。


戦争しても勝てない。


だから呪いを使った。


陰湿な方法だった。


報告は連合中央へ届けられる。


会議が開かれた。


トミーがため息を吐く。


「今度は呪いか」


ロバートは不機嫌そうだった。


「正面から来い」


「陰に隠れるな」


ソフィアも腕を組む。


「雑魚ほど姑息だな」


セリナは資料を整理していた。


「今回重要なのはそこではありません」


会議室が静かになる。


「重要なのは発見できたことです」


確かにそうだった。


昔なら解決できない。


村人は怯える。


病だと思う。


祈る。


終わり。


それだけだった。


今は違う。


調査できる。


分析できる。


原因を探せる。


教育された人材がいる。


索敵部隊がいる。


治療師がいる。


教師がいる。


だから解決できた。


エルナが言う。


「環境ですね」


誰も否定しない。


環境が人を育てた。


育った人が問題を解決した。


それだけの話だった。


数日後。


アルナ村。


マイケルが治療院で患者達を診ていた。


光属性浄化。


ピュリフィケーション。


ピュリファイ。


そして精神治療。


呪いは既に解除されている。


患者達も回復していた。


老人が笑う。


「助かった」


「ありがとう」


マイケルは少し照れた。


昔。


泣き虫だった少年。


何もできなかった。


その少年が今。


村を救っている。


それを見ていたエルナも微笑む。


治療院には笑顔が戻っていた。


事件は終わった。


しかし連合は学んだ。


新しい脅威がある。


強くなれば敵も変わる。


盗賊。


奴隷商。


傭兵崩れ。


そして呪術師。


問題は消えない。


形を変える。


だから学び続ける。


育ち続ける。


会議の最後。


ケルナインは一言だけ言った。


「記録しろ」


それだけだった。


誰も驚かない。


連合では当たり前だった。


問題は教材になる。


失敗は財産になる。


経験は共有される。


今回の呪い事件も。


教師達によって教材化される。


全村へ共有される。


そして次はもっと早く解決できる。


環境が人を育てる。


人が環境を守る。


東部村落連合はまた一つ賢くなった。


それは戦争の勝利ではない。


学習の勝利だった。







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