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滅びかけた貧困村から始まった教育革命が、やがて世界文明そのものを変えるまでの物語  作者: 慈架太子


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95話:商売も才能じゃない

朝。


ヴァレリア商会第二陣の商会員たちは広場へ集められていた。


教師はトミー。


狐獣人の青年は相変わらず軽い笑みを浮かべている。


商会員たちは少し不思議そうだった。


戦闘訓練ならマイケル。


索敵ならミシェル。


超能力なら専門教師。


今日はなぜトミーなのか。


そんな空気を感じ取ったのか、トミーは肩をすくめた。


「おいおい、そんな顔するなよ」


「今日は授業じゃねぇ」


「村見学だ」


ざわりと空気が動く。


村見学。


マーガレットも腕を組みながら興味深そうに見ている。


トミーは笑った。


「みんな商人だろ?」


「だったら戦う方法より先に見るものがある」


「商売ってのは商品を見ることじゃねぇ」


「流れを見るんだ」


その言葉にマーガレットの目が少し細くなる。


良い言葉だった。


商売人の本質を突いている。


トミーは歩き出した。


「行くぞ」


一行は村を歩き始めた。


最初に案内されたのは巨大倉庫だった。


かつての貧困村では考えられない規模。


木造と石造が組み合わされた巨大建築。


内部には穀物。


布。


薬草。


鉄。


木材。


塩。


保存食。


魔石。


あらゆる物資が整然と並んでいる。


商会員たちは目を見張った。


「でかい……」


「王都の倉庫並みじゃないか……」


トミーは頷いた。


「でも重要なのは大きさじゃない」


彼は木札を取り出した。


在庫管理札。


商品名。


数量。


入荷日。


出荷日。


担当者。


全て記載されている。


「物は数えられないと存在しない」


静かな声だった。


「倉庫に一万袋あっても」


「何袋あるか分からなければゼロと同じだ」


その瞬間。


一人の商会員の身体から光が漏れた。


「え?」


本人も驚く。


鑑定すると表示された。


【在庫管理】


商会員たちがざわつく。


トミーは苦笑した。


「もう覚醒したのかよ」


マーガレットは思わず笑った。


「相変わらずおかしな村ね」


「環境が良すぎる」


次の瞬間。


別の商会員も光り始める。


【在庫把握】


【保管管理】


【数量把握】


次々とスキルが芽吹く。


商会員たちは唖然としていた。


まだ見学を始めて数十分。


それだけで才能が開花している。


トミーは先へ進む。


次に向かったのは物流拠点だった。


大量の荷車。


積み込み作業。


出荷準備。


配送先確認。


商会員たちは自然と足を止める。


荷車が無駄なく動いていた。


一切の混乱がない。


「何でこんなに早いんだ?」


誰かが呟く。


トミーは笑った。


「理由は簡単」


「荷物を運んでるんじゃねぇ」


「情報を運んでるんだ」


商会員たちは首を傾げる。


トミーは地図を広げた。


村。


街。


農地。


工房。


街道。


全てが線で結ばれている。


「商品は結果だ」


「物流の本体は情報だ」


「どこに何がある」


「どこで足りない」


「いつ必要になる」


「それを先に知る」


「だから運べる」


その瞬間。


再び光が生まれた。


【物流】


【流通管理】


【配送計画】


【経路把握】


次々と覚醒していく。


商会員たちは驚きっぱなしだった。


マーガレットだけが静かに頷いていた。


この男。


本当に商売が分かっている。


トミーは元々要領のいい狐獣人だった。


しかしケルナインの指導を受けた結果。


商売そのものを理解している。


単なる行商人ではない。


物流という巨大構造を理解している。


続いて農地。


広大な畑。


小麦。


芋。


豆。


果樹。


薬草。


どこまでも続く生産地帯。


農業革命の中心だった。


トミーは言う。


「商人は売るだけじゃ駄目だ」


「作る側を知らないと終わる」


農民たちが働いている。


収穫量。


必要資材。


季節。


水量。


肥料。


全部が数字になっていた。


「食料が分からない商人は三流」


「食料を支配できる商人は一流」


その瞬間。


また光。


【農産物流通】


【穀物管理】


【市場分析】


【価格予測】


覚醒が止まらない。


午後。


鍛冶場へ。


ベルンとドワーフたちが働いていた。


鉄を打つ音が響く。


火花が散る。


商会員たちは見入った。


トミーは説明する。


「武器を見るな」


「職人を見ろ」


皆が首を傾げる。


「職人が育てば商品は勝手に増える」


「だから人材が商品なんだ」


その言葉にベルンが笑った。


「分かってるじゃねぇか」


さらに紡織工房。


リーザ。


リーブ。


リーゼ。


大量の布が生産されている。


タオル。


服。


毛布。


寝具。


ロープ。


商品が山積みだった。


商会員たちは驚愕する。


「これ全部売れるぞ……」


「しかも品質が高い……」


トミーは笑った。


「そうだな」


「だから村は豊かになった」


紡織産業。


それは村最大級の収益源になっていた。


そして仕立工房。


パン工房。


厨房。


醸造所。


蒸留所。


薬房。


見学は続く。


説明を聞くだけで。


職人を見るだけで。


次々と覚醒が起きる。


【品質鑑定】


【職人評価】


【商品分析】


【商談】


【交渉】


【販売】


【原価計算】


【利益予測】


【市場観測】


【商品企画】


商会員たちはもはや呆然としていた。


何が起きているのか理解できない。


マーガレットだけが理解していた。


この村は環境そのものが教師なのだ。


夕方。


最後に訪れたのは巨大市場だった。


人が溢れている。


エルフ。


ドワーフ。


獣人。


魔族。


ダークエルフ。


ヒューマン。


全員が働いている。


全員が学んでいる。


全員が未来を見ている。


トミーは振り返った。


「どうだった?」


誰も答えられない。


圧倒されていた。


マーガレットが静かに言う。


「分かったわ」


「この村の本当の商品が」


トミーは笑う。


「だろ?」


「布でもねぇ」


「酒でもねぇ」


「薬でもねぇ」


「武器でもねぇ」


そして市場を見渡した。


働く人々。


学ぶ子供たち。


教える教師たち。


成長し続ける職人たち。


「人だ」


「この村の商品は人だ」


静寂が落ちる。


その瞬間。


トミーの身体から眩い光が溢れた。


周囲が息を呑む。


鑑定結果が現れる。


【商業教導】


新たな教導スキルだった。


物流。


在庫。


交渉。


市場。


経済。


商売を教えるための教導スキル。


トミー自身が驚いている。


「お、おい……」


「俺かよ……」


周囲から笑いが起きた。


マーガレットも笑っていた。


「当然じゃない」


「今日一番教えていたのはあんたよ」


夕陽が市場を照らしている。


かつて盗賊と病と飢えに苦しんだ貧困村。


その面影はもうない。


教育が人を育てた。


人が産業を育てた。


産業がさらに人を育てる。


巨大な循環。


ケルナインは遠くからその光景を眺めていた。


何も言わない。


何も命令しない。


環境だけを整える。


後は人が育つ。


今日また一人。


新しい教師が生まれた。


そしてヴァレリア商会第二陣の全員が理解した。


この村の最大の財産は金ではない。


人材だった。







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