第85話:友達
児童養護施設、さざれやの里。それが、堀井が迷いこんだ場所の正式な名前だった。警察が呼ばれて、近くのアパートを捜索し、少女の母を見つけだす。その間に彼女はお風呂から上がって、体を拭いて着替えていた。警察が施設に来て、少女と一緒にいた女性が、少しだけ離れる。
「殺人事件ではありません。どうみても自殺です。家の様子を見ましたが、その子はどうやら育児放棄に近い状態で、育てられていたようですね」
「そうですか……。あの、この子のお父様は」
「離婚して、別の女性と結婚しています。養育費は支払っていたようですが……。連絡しましたが、自分には関係ないと言われてしまいました」
施設の女性は、警察の話を聞いて真剣な表情を浮かべた。
「では、このままここで……?」
「いえ、おそらくそうはならないかと。さきほど彼女の母親について調べてみましたが、どうやらハーフだったようです。イギリスに、母方の親戚がいるようで……詳しい話をするのは、これからですが」
「そうでしたか。それなら、あの子にはまだ、心配してくれる家族がいるんですね?」
女性はホッとしたような顔で聞く。警察は頷き、話を続けた。
「はい、おそらくは。とにかく親戚の方と連絡が取れるか、試してみます。それまでは、ここで保護していただけますか?」
「もちろんです。いつもありがとうございます」
「いえいえ、こちらこそ。では、私はこれで」
堀井は大人の話の、ほとんどが理解できなかった。ただ、自分のことを話しているのだということだけは分かって、不安そうな顔をする。
「大丈夫よ」
その横で。名越と名乗った少女は、お姉さんぶって胸を張った。
「ここにいる子はね、みんなアメリちゃんと同じなの。今、加々美先生が話してるのは、アメリちゃんの家族のこと。お母さんのお家の人と、会えるようにしてくれるって。だからアメリちゃんは、きっとすぐに出ていけるわ」
「……美華さんは?」
遠慮しながら、堀井が返す。名越は穏やかな笑みを浮かべたが、その目は嘘をつけなかった。少し寂しげなまなざしで、彼女は告げる。
「私は18才までここにいるの。両親に、生まれてすぐに捨てられたから。引き取ってくれるような人も知らないし……」
「じゃあ、私も残る!」
まっすぐに。名越を見つめて、堀井が言う。その言葉に、名越は嬉しそうな顔をした。
「……うん、ありがとう。アメリちゃんは優しいね。でも、無理なの。ここにいられるのは、行き先がない子供だけだから。……それにね、アメリちゃん。お仕事で世話してもらうより、家族に愛してもらえる方が、きっとずっと幸せだよ」
最後の言葉は、堀井にだけ聞こえるように。名越は伝えて、彼女の手を握った。
「私のことは気にしないで。あなたがいい人に引き取られるなら、私はそれが1番いいの」
1/胸を張る
「胸をそらせて、自信のある様子をする。得意になる」
この後書き内での説明は、コトバンクのデジタル大辞泉から引用したものです。




