第84話:新しい出会い(後編)
そこがどこなのか。それは少女には分からなかった。知らない人ばかりの、大きな家。その中に、猫と一緒に入れられて、彼女はボンヤリと立ちつくす。少女を家に入れた女性は、真剣な表情で他の大人たちと話しあいながらも、彼女のことを気にしていた。
「ねえ! あなた、外国の子なの?」
猫に釣られて集まってきた子供たちの中から、年上の女の子が出てきて聞く。少女は首を傾げて言った。
「違うよ。なんで?」
「だって見た目が違うもん! 髪、黄色いし!」
女の子の言葉に、周囲の子供たちも頷く。猫を抱えた少女は、悲しそうに目を伏せた。
「……そう、だけど。お母さんもおんなじだもん……」
「じゃあ、お母さんが外国の人なんだ。いいなあ。どこから来たの? 英語は話せる?」
「……知らない。話せない。お父さんは、お母さんが違うの、嫌いだったの。だからお母さん、頑張ってた。でも、時々。お家のことを話したら、怒られて……」
「ふうん。一緒だね」
女の子の言葉に、周囲の子たちの緊張が緩む。少女と猫は、あっという間に囲まれた。
「私、名越美華。あなたは?」
「……堀井、アメリ……」
「じゃあ、アメリちゃんね。これからよろしく。私のことは、美華って呼んで」
「……うん。よろしくね、美華さん」
戸惑いながらも、堀井と名乗った少女は笑顔で返す。子供たちを見守っていた女性は、安心したような様子を見せた。彼女はしゃがんで、子供たちと目線を合わせる。
「ハイハイ、みんな。仲良くなれたのはいいことだけど、そこまでよ。アメリちゃん。とりあえず、あなたはお風呂に入って着替えてきて。その猫は……」
女性の言葉が終わる前に。それまで大人しくしていた猫は、耳を動かして顔を上げた。そして小さな動物は、少女の腕から抜けだして、そのまま外に走っていく。
「……あ。猫さん……」
「……あら、まあ。お風呂が嫌だったのかしら。……さ、アメリちゃん。残念だけど、あの子のことは諦めましょ」
女性に促されて、堀井は少し残念そうにしながらも、言うとおりにする。足を拭いて浴室に入り、女性に手伝ってもらいながら、シャワーで体を洗ったところで。少女のお腹は、大きく鳴った。
「……お腹がすいたの? 綺麗にしたら、何か出してあげましょうか。ご飯の時間は過ぎてるけど、おやつの時間はもうすぐだから」
水音に混じる女性の声。それは優しくて温かかった。ふと。少女はなぜか泣きたくなる。
(……どうして、だろう。どこも痛くなんてないのに)
彼女は何も覚えていない。その場所のことは、誰の記憶にも残らないから。だから自分でも、理由が分からないまま。堀井は静かに泣き続けた。




