第83話:新しい出会い(前編)
「……あれ?」
次に目を開けたとき。少女はアパートの中で、倒れていた。
「私、泣いてた……? どうして?」
ゆっくりと起き上がって、彼女は室内を歩きまわる。小さな狭い部屋が3つ。少女はそこから、出たことがない。
「……お母さん、どこ……? お腹、すいた……」
彼女は父親の顔を知らない。彼は子供が物心つく前に、家族を捨てて出ていった。他に好きな人ができたのだと。母親が泣いていたことを、彼女はボンヤリと思いだす。
「……お母さん」
やがて。少女は風呂場で、母を見つける。お湯を張ったバスタブに手首を沈めて、目を閉じてグッタリとしている彼女は、子供の声にも反応しない。
「お母さん、起きて。ご飯、買って」
小さな手で、少女は母の体を揺さぶる。だが、それでも。女は動かず、子供は諦めてその場を離れた。
「お金、ない……」
机の上は、昨日の夜から片づいていない。食べ物の入っていないプラスチックのゴミを動かしても、彼女は1円も見つけられず、途方に暮れた。
「ニャー」
その足下で、声がする。そこには1匹の三毛猫がいた。外から迷いこんできたようで、室内には泥の足あとがついている。
「……猫さん? あなたも、1人なの?」
「ニャア。ニャー」
少女の問いに答えるように。猫は鳴いて、また外に出ようとする。彼女はなんとなく、その後ろをついていった。猫と子供は、同じ速度で道路の端を歩く。
「どこに行くの? あまり家から離れちゃいけないんだよ。大人の人に見つかったら、お母さんが怒られるから」
「ニャン」
猫は知ったことかという顔で、尻尾を揺らす。そしてそのまま、進んでいった。少女は不安そうな顔で、自分よりも小さな生き物を見つめる。やがて。その猫は、大きなビルの陰に立っている建物の庭に入った。そこには少女と同じような年ごろの子供が集まっていて、猫を見つけると声を上げる。
「あ、猫ちゃんだ!」
「え、どこどこ?」
子供の声が大きくなり、少女は戸惑って立ち止まる。建物の中から、大人の女性が顔を出した。
「どうしたの……って、あなた!」
子供たちの目線の先に。少女を見つけて、女性は叫ぶ。そして慌てて靴を履いて、飛びだしてきた。
「……あ」
駆けよってくる大人を見て。少女は体を固くする。
「あの、違うの。お母さん、疲れてるみたいで。お風呂で、動かなくて。だから……」
「……っ。ええ、ええ。いいのよ、大丈夫。あなたは何も気にしないで」
大人の女性は、目の前の子を抱きしめて言った。そして微笑み、話を続ける。
「事情は分かったわ。とりあえず、入ってちょうだい。ここには、あなたやあなたのお母さんを責める人はいないから」
1/途方に暮れる
「方法や手段が尽きて、どうしてよいかわからなくなる」
この後書き内での説明は、コトバンクのデジタル大辞泉から引用したものです。




