第81話:決戦(前編)
「お姉ちゃんは、おじさんと私を殺しにきたの?」
翠の瞳を向けられて。坂井は穏やかな笑みを浮かべる。
「ええ、そうよ。私はどうしても、家に帰りたいの」
「……どうして?」
ホリーの声は、悲しげだった。閉まった扉に背をつけて、坂井は続ける。
「私には息子がいるのよ。ホリーちゃんと、同じくらいの」
「……そうじゃねえかとは思ってたが。やっぱりお前は、見た目どおりの年じゃなかったか」
拳銃を構えた状態で、浦見は苦い顔をする。
「その子のところに帰るためなら、何をしたっていいってか?」
「――ええ」
迷いなく。坂井は頷き、男を見返す。
「夫とは、別れたから。私の宝物は、勇太だけ。あなたたちには悪いけど……。どうしても、私はあの子と暮らしたいの」
「……いや」
真剣な表情で、浦見は告げる。
「母親なら、当然だろ。まして、後を任せられるやつがいねえってんなら、なおさらだ」
「あら、ありがとう。……でも、あなたも生き残りたいのよね?」
坂井の言葉に。彼は答えず、銃の引き金に指をかける。
「……待って」
ホリーの声が、その手を止めた。浦見は坂井から目を離さずに、口だけを動かす。
「怖えなら、目を閉じてろ。お前さんは、見なくていい」
冷たい声。それにも少女は怯まずに言う。
「それは嫌。だっておじさんは、私のためにやってるんでしょ」
彼女の言葉に。男は渋い顔をして、坂井はニッコリと微笑んだ。
「……本当に、あなたは隠しごとができないのね」
そして。彼女は1歩、前に出る。浦見の眉間によったシワが、深くなった。
「動くなって言ったろうが。それ以上、近づくと……」
「撃たないでしょ、あなたは」
坂井の笑みが深まる。
「殺すなら。せめて、自分の手で。……そういう風に、考える人だから」
スタスタと。彼女は足を進めていく。浦見はそれを見て、ため息をついた。
「……ったく、なんで最後に残ったのが、よりにもよってお前なんだ」
言葉と共に、男は手に持った銃を下ろす。その間に、坂井は彼に近づいた。
「さあ、どうしてでしょうね。こういうのを、運命って言うのかも」
手を伸ばして、彼女は銃を奪おうとする。だが。男はそれを振り払って、拳銃を後ろに投げ捨てた。
「……こんな運命、嬉しくねえよ。だいたい初めは、お前さんも乗り気になってなかっただろうに」
「状況は変わるものなのよ。仕方がないわ」
2人の様子は、いつもと同じだ。ただ、目だけはとても真剣で。それが彼らの決意を示している。ホリーは男の背中にしがみついて、暗い表情を浮かべたまま、彼らの姿を見つめていた。




