第8話:おじさんと幼女と女子高生(後編)
「……そうだね」
坂井も表情を和らげる。2人と目を合わせるために、彼女が膝を折った瞬間に、長い黒髪がサラリと揺れた。
「おじさんは良い人みたいだし、気にしなくてもいいか。……ごめんね、おじさん」
「仕方ねえよ。何も思い出せない状態で、こんなところに連れてこられたんだ。ピリピリするのも当然だろ」
浦見はできるだけ、穏やかな表情で返した。煤けた顔に、笑みが浮かぶ。
「……ねえ、まだ探すの?」
ホリーが彼の腕を掴む。緑色の目は、心配そうに細められていた。その、金色の頭を撫でながら。男が告げる。
「……ああ。出口を見つけて、お前らを助けてやりたいからな」
坂井が唇を引き結ぶ。電子音が、街に響いた。
「これって……!」
彼女が声を上げて、ウインドウを見る。表示されている数字は、37人に変わっていた。
「……誰が何を見つけたっていうのよ」
少女は吐き捨てるように呟く。真っ黒なウインドウは、何も言わなくなっていた。
「……ひとまず、どこかで休むことにするか」
浦見がヨロヨロと立ち上がる。彼は少し遠くにある、コンビニの看板を指さした。
「非常事態だ。店に入れるなら、食べ物か飲み物を探してみよう」
「……ええ、そうね」
ホリーの手を取って、坂井が頷く。3人はコンビニに向かって歩いた。進んだ先で、自動ドアの前に男が立つと、ドアはゆっくりと開いていく。
「……特に問題はなさそうだが」
店内に人影はない。カウンターも、無人だった。浦見は少女たちを外に残して、店内を歩く。そこはカフェスペースがあるタイプのコンビニで、品物は全て、真っ黒な色をしていた。
「……よし、いいぞ」
店内を回り、カフェスペースを確認してから、彼は入口に向かって声をかける。2人の少女は、手を繋いだまま中に入った。商品棚を漁る男を横目に、彼女たちはカフェスペースの椅子に座る。
「……それ、食べられるの?」
浦見が持ってきた黒い食べ物の袋を見て、坂井が聞く。彼は答えず、同じく店内から探してきた黒い紙皿を机に置いて、ポテトチップスの袋を開けた。墨に漬けられたような真っ黒な欠片が、皿の上に山積みになる。ホリーはそのうちの1つを手に取って、迷わず口に入れた。
「……これ、美味しいよ」
「ええ……?」
坂井が不審そうに、ポテチをつまむ。浦見は構わず、お茶と紙コップを取りにいった。
「……うう。別にお腹はすいてないけど……。食べ物がこれしかないんなら」
彼女は意を決して、ポテチを食べる。見た目はともかく、味は普通のスナック菓子だった。
1/煤ける
「すすがついて黒く汚れる」
2/不審
「疑わしく思うこと。疑わしく思えること。また、そのさま」
この後書き内での説明は、コトバンクのデジタル大辞泉から引用したものです。




