第7話:おじさんと幼女と女子高生(中編)
「……ええ、そうね」
少女が頷き、3人は揃って歩きだす。ビル街から、鉄錆の臭いが漂ってきた。
「……こっからは、離れるか」
浦見が眉間にシワを寄せる。彼はホリーの手を引いて、坂井と共に十字路まで戻った。
「こんな場所だ。何を見ても、下手に動くな。俺が先に確認する」
男の言葉に、2人が首を縦に振る。彼は続けて、道を指さしながら言った。
「それと、俺たちはこっちの道から来た。アンタがそっちを探したんなら、とりあえず向こうに行ってみようぜ」
2人はその言葉を受け入れる。周囲の景色は相変わらずで、変化はなかった。それからどれくらい歩いたか、自分たちでも分からなくなるころ。近くにあるビルの1階部分、駐車場のシャッターが開いていることに坂井が気づく。
「浦見さん、待って。あそこ……」
その隙間からは少しだけ、中が覗けた。駐車場に停まっている数台の車と、その奥に。見切れているが、扉がある。
「……そこにいろ。いいか、動くなよ」
男は身をかがめて、シャッターの隙間から潜りこんだ。薄暗い駐車場に、彼の足音が反響する。
(どうも嫌な予感がするな)
男は周囲を見回しながら、駐車場の奥へと進んだ。パッと見た限りでは、罠が仕掛けられているような様子はない。
(考えすぎか?)
浦見がドアのノブを握る。その瞬間に、近くの車が爆発した。黒い煙が、駐車場に充満する。
「おじさん……!」
坂井が悲鳴を上げる。ホリーも両手で、口を押さえた。しばらくして、シャッターの奥から手が出てくる。
「……心配すんな。俺なら平気だ」
見慣れた男が、咳こみながら出てくる。彼のスーツはあちこちが焼け焦げていたが、彼自身にケガはなかった。
「……おじさん。どうして?」
「知らねえよ」
シャッターの隙間から這いだしながら、浦見が答える。
「俺にも理由は分からねえ。ただ、体が自然と動いたんだ」
アスファルトに視線を落として、彼は淡々と話し始める。
「爆破と同時に、俺は他の車を盾にするようにして、その場から離れた。……なんでだろうな。こうすれば、助かることができる。そう思ったんだ」
「……それは……」
坂井が声を上げる。ホリーが男に近づいた。
「おじさんは、こういうことに慣れてたの?」
「……まあ、そういうことなんだろうな」
すり傷だらけの手のひらを見つめる彼に、坂井は何も言えなかった。自身の記憶がないのは、彼女も同じだったから。
「良かった」
ただ、ホリーは違った。人形のような顔に、安堵の笑みが浮かぶ。
「おじさんが助かったなら、それが1番いいことだよ」
1/充満
「一定の空間などに、あるものがいっぱいにみちること」
2/安堵
「気がかりなことが除かれ、安心すること」
ーー除く「取ってなくする。取りのける」
この後書き内での説明は、コトバンクのデジタル大辞泉から引用したものです。




