第78話:戦闘(前編)
広げられた、紙の地図。その上で、4つの点が動いていた。そのうちの2つ。重なった点が、6階で止まる。坂井はその様子を、エスカレーターの上で見ていた。
(おじさんは、変わらないわね。受け身のまま。私たちは、そういうわけにもいかないけど)
4階にある光点は、飲食店に入った後に、坂井が使っているエスカレーターの出口向かった。それを見て、彼女は2階で足を止める。
(さすがに、このまま上るわけにはいかないわね)
今。坂井がいるのは、東側のエスカレーターだ。そこから彼女は、時計回りに移動して、フロアの北にあるエスカレーターに向かった。4階の点は、彼女を追って移動してくる。
(……やっぱりね。私を待ち伏せしようとしてる。……どうしましょう)
地図を折りたたんで、坂井はそこで立ち止まる。そして1度、踵を返して全速力で走ってみた。元の場所を通りすぎて、彼女はその先にある、家具を売っている店に飛びこむ。
「……っ、ハァ、ハァ……」
柱に手をついて。坂井は肩で息をしながら、ズルズルとその場に座りこんだ。彼女はそのまま、握りしめていたせいで、シワがついた地図を開く。4階の点は、動いていない。
「……様子を、見てるのかしら。いえ、違うわね。体力を残しているんだわ。きっと、これは……」
彼女はほとんど、確信していた。4階にいるのは、あの茶髪の女だと。
(残りの人数を見て、男の人を裏切ったのね。私のことも、おじさんのことも。自分1人で、殺せると思って)
そして。茶髪の女は、先に坂井を殺しにきた。当然のことだ。坂井にとっても、その方がいい。
(おじさんなら、こんな手は通じないもの)
浦見と茶髪の女の違い。それは男女の差だけではない。もう1つ、決定的なものがある。
(あの女は、彼ほど積極的に動かない。今だって……)
4階の人物は、下に移動しようとはせず、フードコートに戻っていった。それを見て、坂井はゆっくりと立ち上がる。
(ほらね。どうせ、私が何度も位置を変えてるから、それに対応するのが面倒になったんでしょ。さて、彼女の武器は何かしら)
大きな家具の間を通り抜けながら、坂井はマップを見て考えこむ。
(最低でナイフ、最高で包丁……そんなところね。防ぐには……)
家具の中にはクッションもあった。だが、それは服の下に入れるには、少し大きすぎる物だ。
(……これ、かしら)
最終的に。彼女は隣に並んでいる、オモチャ店に入っていく。そこにはちょうどいい大きさの、ぬいぐるみが置いてあった。
1/踵を返す
「あともどりする。引き返す」
2/肩で息をする
「苦しそうに、肩を上げ下げして呼吸をする」
3/確信
「固く信じて疑わないこと」
この後書き内での説明は、コトバンクのデジタル大辞泉から引用したものです。




