第74話:生き残ったのは
戸茅は困っていた。2度の失敗に、彼の協力者は怒っている。
(男だけなら良かった。拳銃を突きつけられたという、もっともな言い訳もある。でも、さっきの女の子は別だ)
小さく非力な女子高生。それが彼らの、坂井に対する評価だった。本当なら殺せていたはずの獲物。だというのに、彼は逃がしてしまった。
(次は、ない)
追いつめられた戸茅は、そこで次の獲物を見つける。みすぼらしい姿で歩く男。彼は爆発から間一髪のところで助かったようで、全身が煤にまみれていた。服や髪にも、焼け跡がある。
(よし、あの男なら……!)
彼は強い恐怖を感じたせいで、表情が暗くこわばっていた。戸茅は道を変えて彼の前に回りこみ、優しい声で話しかける。
「……大変な目に遭われましたね」
男はとびあがり、何も言わずに引き返す。彼が完全に背を向けたとき、これまでの失敗を取り戻そうとして焦っていた戸茅は、後ろから彼に襲いかかった。2人の男は、揉みあいながら道に転がる。
「やめろ……! いやだ! 死にたくない!」
「いいや、お前には死んでもらう。僕のために!」
戸茅は彼の首をしめながら叫んだ。弱っていた男は、それでも最期の瞬間にやり返す。彼はポケットからナイフを出して、戸茅に向けた。だが。服の上から刺そうとしても、それは小さなナイフの刃では不可能だった。男の体から力が抜ける。ディスプレイに表示された人数が、6から5に変わった。
「やったよ……!」
戸茅は得意げに声をかけた。物陰から、茶髪の女が出てくる。
「……話が違うじゃない」
彼女は冷ややかな声で言った。褒められると思っていた戸茅は、不満そうな顔をする。
「結果は変わらないだろう。ともかくこれで、また1人いなくなったわけだし……」
「……そうね」
彼女は近づき、死体を調べる。そして男が持っていたナイフを、手に取った。
「これで終わりにしましょうか」
女性の声に、感情はない。茶髪の女は、真っ黒なナイフを戸茅に向けた。
「…………は?」
何が起きたのか理解できず、彼は固まる。彼女は構わず、ナイフを振るった。戸茅の首すじが切り裂かれて、赤い血が吹きだす。ディスプレイに表示された人数は、その瞬間に5から4になった。
「いやだ、顔に血が付いちゃったじゃない。洗わないと……」
呟く女の目線の先で、2人の男は重なりあって倒れている。彼らを見下ろして、彼女はそこで、初めて笑った。それは、ひどく嫌な笑顔だった。
「もしかして、最後まで一緒にいられると思っていたの? おあいにくさま。残りはみんな、あなたが殺せなかった相手よ。あなたがいたら、勝てるものも負けてしまうわ」
最後にそう告げて。茶髪の女は立ち上がり、死体を置いてそこから去った。
1/間一髪
「事態が極めて差し迫っていること。その寸前のところ」
この後書き内での説明は、コトバンクのデジタル大辞泉から引用したものです。




