第73話:悪意
浦見たちがコンビニの中で休んでいたころ、坂井は外の道で戸茅に声をかけられていた。
「ああ、ちょうど良かった! 人に会えず、困っていたんです。どうか僕を助けると思って……」
前から歩いてきた彼には構わず、彼女はその言葉を無視して、交差点を右に曲がる。
「あ、ちょっと!!」
男は慌てて追いかけたが、数分しか差がないというのに、女はそこにいなかった。どうなっているのか分からず、彼はその場で立ちつくす。
「……逃がしたの?」
やがて、もう1人の人物がそこに来た。ショートカットの、茶髪の女性。彼女は明らかに苛立ったような様子を見せている。
「役に立たないわね。あの人とは大違い」
「何……?!」
冷たい声で非難されて、戸茅は目を吊りあげる。
「僕に囮になれと言ったのは君だろ!」
「仕方ないじゃない。他は臆病者とバカだけだったんだもの。……本当、どうして早めにあの人と組めなかったのかしら。残念だわ」
面と向かって吐き捨てて、彼女は苦々しげな表情を浮かべる。男は不機嫌そうに返した。
「……浦見のことか。どうして君が、奴をそんなに評価してるのか知らないけど。あいつだって、逃げてばかりじゃないか。君と組む資格なんてないよ」
「あら、そう? あの人は、その気になれば戦える人だと思うけど」
「だったら僕だってそうさ。あの女は、まだ遠くには行ってないはずだ。探して殺そう。そうすれば、また数が減る」
言いながら、彼は周辺を探しだす。全ての物陰を覗いて、隠れている坂井を見つけようと。だが、収穫はなかった。
「もういいわ」
しばらくして。ため息をつきながら、女が告げる。
「これだけ時間がかかったのなら、彼女は遠くに逃げているでしょ。別の獲物を探しましょう」
その言葉に、戸茅は逆らわなかった。女は次の十字路を左に曲がり、身を隠す。男はそのまま、まっすぐ進む。そうしてまた、彼らは誰かを挟み撃ちにする準備を整えた。人が去った道に、風が吹き抜ける。
「……よっと……危ないところだったわね」
そこでようやく、坂井は道に停まっている車から、外に出た。彼女がいたのはトランクの中。曲がった先で、たまたま少し開いているのを見て、そこしかないと思ったのだ。
(……罠じゃなくて良かったわ。開けた瞬間、大爆発とか……。考えなかったわけじゃないけど。どちらにしても、あの人たちに捕まったら殺されていたでしょうし)
坂井はすぐに、来た道を戻る。彼らは彼女が先に行ったと思うはずだ。ならばその逆、引き返せばいい。
(……でも、2人組か。厄介ね。今は味方がいないから、組まれたら私じゃ勝てないわ)
そう思ってから。ふと、坂井は面白そうに笑った。
(にしても、あの人。浦見さんが協力してくれるなんて、どうして思ったのかしら。いつ出会っても、おじさんはそんなことはしないわ)
クスクスと、小さな笑いをこぼしながら。彼女は広い街の中に、その姿を溶けこませた。
1/面と向かう
「直接に相手と向かい合う」
この後書き内での説明は、コトバンクのデジタル大辞泉から引用したものです。




