第68話:どうだった?
「……よし。ここまで来れば、大丈夫だろ」
呟いて、浦見はビルの壁に張りつく。そして彼は、背にいる少女に声をかけた。
「それで、何があった?」
「……えっと」
ホリーは少し、戸惑いながら口を開いた。
「ピンク色の、布が見えたの」
口に出すと、それは本当に、なんでもないことのように聞こえる。だが。
「……ああ、なるほど。そりゃあ確かに、おかしいな」
男は少女の話を聞いて、真剣な声で返した。そして考えながら続ける。
「あの戸茅って男は、誰かと組んでいるのかもしれねえ。奴が俺たちの注意を引く役だったとしたら……。お前が見たのは、俺たちを背後から襲おうとしてた奴かもしれねえ」
「……そう、なのかな。あの人が本当に、優しい人だったっていう可能性は?」
ホリーは目を伏せて、落ちこんだような声で言う。浦見は片手を後ろに回して、彼女の肩の上に置いた。そしてそのまま、手の位置を変えて頭を撫でる。少女は彼の手に自分の頭を近づけて、されるがままになっていた。手を動かしながら、彼は続ける。
「ねえとは言わねえが、かなり薄いな。……お前が言いたいことは分かるぜ。だが、もし。戸茅が良い奴で、俺と話したかっただけだとしても。お前が見た、そのピンク色の布は、間違いなくそこにあったんだろ。なら、そこには誰かがいたんだ」
会話の途中で、男は動かしていないもう片方の手に持った拳銃を、元の場所に戻す。そして彼は空いた手で、頭に被っていた帽子を取った。その色は、周囲に溶けこむ黒。
「お前も見たはずだ。ここにある物には、色がねえ。色がついている物は、誰かが外から持ちこんだ物。そこに人がいる証だ。そいつが誰で、何をしようとしてたかは知らねえ。ただ、それでも。お前がやったことは正解だった。俺はそう思ってるし、奴に銃を向けたことも、後悔してねえ」
淡々と、浦見は語る。背中から、小さな声が彼の耳に届いた。
「……うん」
元気のない、ホリーの声。彼女はまだ、自分の行いを気にしているのかもしれないと。男は思い、そこで初めて、彼は小さな笑みを浮かべた。
(分かっちゃいたが、いい子だな)
帽子を被りなおして、浦見は前を向く。そして少しだけ、なごり惜しいと思いながらも。少女を撫でていた手を外した。
「……お前は悪くねえ。後ろで何か、変わったことがあったら知らせる。そういう話だったろう」
最後に。彼は彼女にそう告げて、外の様子を確認した。人の姿はない。
(……行くか。念のために、遠回りして……)
戸茅たちがいた方向には、彼が目的地としていたコンビニがあるはずだ。だが、いくらなんでも、もう1度戻るわけにはいかないと。彼は考え、少女を連れて、反対方向に歩きだした。




