第67話:逃亡(後編)
「はは、確かに。あなたが慎重になるのも、無理はないですね」
メガネの男はそう言って、その場で立ち止まった。浦見は真顔で、彼を見ている。
「僕は戸茅と言います。あなた方は?」
「俺は浦見。こっちはホリーだ」
背にいる少女を親指で指しつつ、浦見は低い声で返す。戸茅と名乗った男は動かず、柔らかな笑みを浮かべていた。
「なるほど。……以前から、あなたの行動力には目を見張るものがあると思っていたんですよ。どのゲームのルールも、すぐに理解されていたでしょう?」
「……まあ、俺はお前より長く生きてるだろうからな」
「ふむ。年の功ということですか。ですが、それだけでは説明がつかないと思いますよ。例の『鬼ごっこ』でも、あなたは他の子供を守りながら、無事にクリアしたのでは?」
会話の途中で。ホリーはふと、嫌な予感がして後ろを見た。モノクロの街並みの中で、1箇所だけ。色がついている物がある。
(……あれ、何?)
それは薄い、ピンク色の布だった。街に色があふれていれば、誰も気にしないような物。
(でも、おかしい)
この街には色がない。飲み物も食べ物も、真っ黒だった。そのことを思い出して、彼女は浦見の肩ベルトを、軽く引く。男は少女の行動に、目を細めた。
「聞きたいことはそれだけか? なら、隠すことでもねえから答えてやるよ。俺は元、警察官だ」
その言葉と共に、彼は懐に手を入れる。そして目当ての物を見つけて、ゆっくりと取り出した。
「……っ!」
余裕そうにしていた戸茅は、浦見の手にある物を見て、凍りついたように動きを止める。それは黒い、拳銃だった。
「こいつは、ここで手に入れたもんじゃねえ。お前が話題に出した、まさにそのゲームで、たまたま拾ったもんだ。他のゲームに持ち込めるかは分からなかったが、これがここにあるってことは、多分使えってことなんだろうな」
「まさか、撃つ気か?!」
叫ぶ戸茅に、浦見は無表情で告げる。
「俺は、積極的に人を殺すことはしない。だからこれは、俺たちが逃げるために使う」
彼は銃口を、戸茅の後ろに向ける。そして躊躇わず、発射した。彼は思わず、頭を抱えてしゃがみこむ。銃弾は、彼には当たらず、側のアスファルトにめりこんだ。浦見はその機会を逃さず、目の前に空いたスペースを走り抜けた。後ろを見ていた少女は、一気に遠ざかっていく景色の中にある色から、目を離さないようにしていた。地味な色の服を着た戸茅は、モノクロの街の中では、すぐに馴染んで分からなくなる。ただ、あのピンク色の布だけは。浦見が道を右折して、ビルの影に入るまで、変わらずそこにあり続けた。
1/年の功
「年を取って、経験を積んでいること。また、その経験の力」
2/機会
「事をするのに最も都合のよい時機」
この後書き内での説明は、コトバンクのデジタル大辞泉から引用したものです。




