第66話:逃亡(中編)
ホリーを背負って、浦見は階段を駆け下りる。ビルの揺れは、もう収まっていた。階段にある階数表示を確認しながら、男が呟く。
「……さて、1階には誰がいるか……」
階段を下りきって、男は周囲を警戒しながら、外を覗く。トイレの出入り口に繋がる道からは、黒い煙が漂ってきていた。
「……ケホ、ケホ……!」
そこから人が転がり出てくる。鉄板に囲まれた部屋でも見かけた、若い男。彼は爆発を避けきれなかったようで、その服は全体的に煤けていた。
「……ヒッ……!!」
浦見と目が合った彼は、小さな悲鳴を上げて逃げだす。男はあえて、追わなかった。
「……どうやら、俺たちと戦う気はねえみてえだな」
「じゃあ、準備は……」
「続けるか? ……あまり、ゆっくりしているわけにもいかねえと思うが」
後ろから聞こえる少女の声に、彼は振り向かずに答える。彼女は周りを見渡して、近くにある店を指さした。
「あそこ。帽子が箱に入れられてるから、あれだけでも持っていかない?」
「……そうするか」
男はホリーが見つけた箱に近づいて、つば付きの帽子を手に取った。
「……まあ、無いよりはマシだな」
言葉を落として、彼は帽子を深めに被る。そして少女と共に、ビルの外に出た。
(……そうか。もう、既に……)
浦見は外の電光掲示板を見る。表示されている人数は、7人。1人、誰かが減ったことを察して、彼は眉間にシワを寄せた。彼の背にしがみついているホリーが、浮かない顔で後ろを見る。
「……ねえ、おじさん。これからどうするの? また食べ物を取りに行く?」
「いや、食料も水も要らねえが……。確かに、あのコンビニは安全だったな。念のために、薬なんかは持ってきとくか」
そう返して、男は歩きだそうとする。その瞬間に。
「……あ! 誰か、いるよ!」
背後に人の姿を見つけた少女は、大きな声で彼に知らせた。浦見はすかさず、体を反転させて身構える。
「……ちょ、ちょっと待ってくださいよ。僕は別に……」
その目の前に、1人の男が現れた。先ほど見かけた人物ではない。メガネをかけている彼は、両手を少し上げた姿で、笑みを浮かべながら2人に近づく。
「ただ、少しお話したいと思っただけです。あなた方も、まさかこんなゲームに、本気になっているわけじゃないんでしょう?」
「……ああ、まあな」
言葉を返しながらも、浦見は警戒を解かなかった。ホリーも睨みつけるような目つきで、いきなり出てきた男を見ている。
「だが、お前の言葉を信用するかどうかは別の話だ。お前もそれは分かってんだろ?」
そう言った浦見と、彼の後ろにいるホリーを見て。男はわずかに、口角を上げた。
1/身構える
「敵や迫りくるものに対し、いつでも対応できる姿勢をとる。また、用心しながら相手になる」
この後書き内での説明は、コトバンクのデジタル大辞泉から引用したものです。




