第64話:守るために
薄暗いビルの階段を、浦見はホリーを抱えて上る。聞こえるのは自分の足音と、2人の息づかいだけ。
(子供服の売り場は4階だったな。売り物に手をつけるのは、どうかと思うが……。緊急事態だ。見逃してくれよ)
そう思いながら、彼は腕の中にいる少女に目を向ける。おとなしくて、素直な子供。
(……顔は、同じか)
鉄製の扉を潜ったとき。思い出したことがある。それは昔の、やり残し。
『先輩。落ち込むことありませんって。俺たちには最初から、どうにもできなかったんですよ』
よく知っている男の言葉が、頭の中で繰り返される。浦見は深いため息をついた。
「……なあ、ホリー」
昔出会った少女のことを、彼は知らない。彼の立場なら、調べることはできたはずだった。けれど。手遅れになってから調べたところで、後悔が増えるだけだと理解していたから。何もせず、仕事に戻った。だからそこにいる彼女が、同じであるという確証は持てない。
(……まあ、そんなことはどうでもいいか。前と違って、今度は俺が、関われる)
浦見には、それだけで良かった。だからホリーにも、無理に過去を語らせようとはせず。彼はただ、これからのことを話すだけだ。
「お前は誰かを犠牲にしてまで、帰りたいとは思わねえだろう。俺も基本はそっち側だ。……だがな。他の奴は、そうじゃねえ」
「……うん。分かってる。おじさんは私を殺さないけど、他の人は私たちを殺そうとしてくるってことでしょ? ……きっと、あのお姉ちゃんも」
「……よく分かってるな。そのとおりだ。だから俺たちは、これからは生き残るために動く」
口と足を動かしながら、男は4階へ上がる。そして彼は、子供用の服を売っている店に入った。
「まずは服だ。少し動きにくくなるが、重ね着をしてもらう。拳銃はどうにもならねえが、刃物はある程度防げるからな」
そう言いながら、浦見はホリーを床に下ろして、厚めの服を探しだす。彼女は彼を見上げて聞いた。
「……おじさんは?」
「俺は自分で何とかするさ。……両手が使えねえのは不便だから、後で背負い紐も探すか。抱っこじゃなく、おんぶでもいいな?」
「いいけど……」
少女は男を見つめて、ハッキリとした声で続ける。
「おじさんも、何かして。自分のことも、守れるように……」
「なら、お前が後ろを見ていてくれ」
彼は彼女の方を見ず、すぐに言葉を返した。彼女は目を丸くする。
「いくらなんでも、背後を常に警戒し続けることはできねえからな。それが、俺はお前を背負うだけで、自動的に解決できる。……どうだ、我ながら名案だろ?」
1/確証
「たしかな証拠。まちがいのない証拠」
この後書き内での説明は、コトバンクのデジタル大辞泉から引用したものです。




