第60話:報酬(前編)
「……おう。まあ、色々とあったが……」
言いたいことを飲みこんで、浦見は頭をかきながら口を開いた。
「無事で良かったぜ。お前さんも、俺たちもな」
そう言いながら、彼は腕の中にいるホリーを下ろす。彼女は2人を見上げて聞いた。
「お兄ちゃんたちは?」
「……あの子たちは、いなくなっちゃったの。ここにいるのは、私たちだけよ」
しゃがんだ坂井が穏やかな微笑みを浮かべて、その頭を撫でる。ホリーは感情の読めない目を、彼女に向けた。
「……そっか。じゃあ、仕方ないね」
その光景を見て、男は一瞬だけ、険しい顔をする。だが。坂井がホリーから手を離すのと同時に、彼は表情を元に戻した。
「……さ、じゃあ……。終わったことは仕方がないし、ここを調べてみましょうか」
坂井は膝を伸ばし、周りを見渡す。鉄板で作られている部屋。見たところ、出入り口は1つしかない。それは斜め向こうに見える、分厚い金属の扉だ。扉に近寄って、彼女はためらわず、手をかける。
「……開かないわね。次のゲームには、進めないってことなのかしら」
「……そうだろうな」
腕を組んで、浦見が言葉を落とす。
「俺たちは先にゲームをクリアしたが、まだ、前のゲームは続いている。他の奴らが全員死ぬか、クリアするまで。ゲームが終わったことにはならねえ」
「それはそうよね。……昔のことを思い出せないのも、前のゲームが終わっていないからかしら」
「……ゲームが終われば、昔の記憶が戻ってくるのか? そんな保証、どこにもねえだろ」
会話の途中で、坂井がわずかに眉をひそめる。彼女は少し苛立ったような様子で返した。
「あら。これまでがそうだったんだから、今回もそうでしょ。あなただって、ゲームをクリアするたびに、記憶を取り戻しているんじゃないの?」
「……さあな。俺の記憶は、ほとんど仕事のことばかりだ。新しいことを思い出したかどうかなんざ、いちいち確かめていられるか」
様子の変わった坂井を見て、浦見は目を細めつつ、話を続ける。
「そもそもだ。ホリーは未だに、何も思い出せてねえんだろ。何事にも、例外はある。そう思わねえか?」
2人の視線がぶつかって、少女が先に目をそらした。彼女は深呼吸して、床を見ながら言葉を発する。
「……思わないわ」
その声はとても冷ややかだった。
「ほら、あの声が前に言ってたでしょ。特別ボーナスがあるとかなんとか。そしてその後に、人を殺す参加者が出た。……あのときはあなた達がいたから、何も言わなかったけれど……。私には、その気持ちがよく分かるの」
1/眉をひそめる
「心配なことがあったり、また、他人の嫌な行為に不快を感じて顔をしかめる」
この後書き内での説明は、コトバンクのデジタル大辞泉から引用したものです。




