第57話:どうする?
1つだけ。解決策を、思いついて。浦見はジッと、そのときを待った。
「だ〜るま……」
歌が流れ始める。両足に力をこめて、男は走る。坂井を追いこし、全速力で。
(……あれ、は……!)
部屋を駆け抜けた、その先に。彼は鬼の姿を見た。長く大きな、2本の角。背に生えている、コウモリの羽。
(悪魔……?)
大きな異形のバケモノは、男の方を見ていない。歌は最後の「だ」の文字に差し掛かっている。
(……くっ!)
スピードを落とし、足を止める。そして浦見は、息を整えながら前を見た。歌が終わり、バケモノが彼の方を向く。
(……どうだ?)
紅い色の歪んだ瞳。口元からは、大きな牙が突き出ている。その目はギョロギョロと、周りを見ていた。
(……やっぱりか)
悪魔が目を止めることはなく、床から黒い手が伸びてくることもない。その様子を見て、彼は確信する。息が切れていることは、動いているとは思われないと。
(まあ、だろうな。呼吸は人間に不可欠だ。これがゲームだっていうなら、クリアのための抜け道はある。俺1人なら、どうとでも……)
しばらくして、また歌が流れる。その間に、彼は口を開いた。
「……なあ、ホリー。ここで、1人で待てるか?」
なぜ、とは。少女は聞かず、目を伏せる。
「……うん。でも、駄目だよ」
透き通る声に、感情はなかった。ただの事実として、彼女は告げる。
「あれ、怖いから。見たらみんな、ビックリする」
歌がやむ。悪魔が再び、彼らを見る。そのせいで、浦見は口を閉じるしかなかった、
(……お前は、驚かねえのか)
思えばずっとそうだった。子供らしくない落ち着きと、感情の起伏がない姿。それはまるで、人形のようだと。
「……それで? ビックリすることの、何が駄目なんだ」
思いながら、男は歌が流れる横で、彼女に問いかける。ホリーは変わらず、淡々とした声で答えた。
「ビックリしたら、動くから。抱えている人が動いたら、おじさんも動いたと思われちゃうかも。そしたら一緒に、死んじゃうよ」
その言葉を耳にして、浦見は全てを理解する。
(……こいつはゲームのルールが分かってる。その上で、俺がやろうとしてることを理解して、俺を心配してるんだな。……らしくねえ、なんて。何を考えてんだ。こいつがどういうやつだろうと、守ると決めたのは俺自身だろうが)
歌が終わる前に。彼は深々と息を吐いた。
「……そうか。死ぬのは、駄目だな」
「……うん」
少女が頷く。悪魔の顔が動きだす。その恐ろしい顔から、けして目をそらさずに。2人はまっすぐ、前を見ていた。
1/差し掛かる
「ちょうどその時期になる。ある場面になる」
2/不可欠
「ぜひ必要なこと。なくてはならないこと。また、そのさま」
3/起伏
「盛んになったり衰えたり、さまざまな変化があること」
この後書き内での説明は、コトバンクのデジタル大辞泉から引用したものです。




