第52話:暗中の会話(前編)
「本当に何も見えないね」
周りを見渡して。小さな声で、十矢が言う。深命は、彼に向かって手を伸ばした。
「でも、これなら安心だろ?」
2人の手がぶつかって。深命は迷わず、そのまま掴む。その手の感触と友人の声に、十矢は安堵の笑みを浮かべた。
「……うん。ありがと、明彦」
そこは右も左も、前も後ろも分からない、深く暗い穴の底。かろうじて、足の下に感じる床の感触だけが頼りだった。そんな中で、浦見は坂井に声をかける。
「おい、こっちだ。他の奴らも来い。ここに、壁があるぞ」
子供たちは、揃って男の言葉が聞こえる方に向かった。手を前に出して進みながら、彼らはなんとか壁を見つける。
「……大変、だね。歩くのも、ひと苦労だ」
「でも、その分ここは安全だよ。だってこんなに暗い場所なら、たとえ上から覗かれても、誰にも見つけられないから」
少年たちが、そんな話をする横で。浦見は上の方を見て、ため息をついた。
「……まあ、こんなところに飛びこむ奴はいねえな。普通は」
「それはそうよね。私も、さっきおじさんが飛び下りたときはビックリしたもの」
坂井がホリーを膝に乗せて、笑いを含んだ声で返す。
「どうしてあんなことをしたの? ……いえ、そもそも。どうしてここが、安全な場所だと思ったの?」
「ここの高さは、それほどじゃねえと思ってたんだよ。お前らも気づいてるだろうが、ここにあるのは全部オモチャだ。外から見たときの高さが、中に入ってもそのままだと……そう思えたから、俺は下りた。安全だと思ったのも同じ理由だ。オモチャの建物なら、空き部屋には何もねえだろうと……そう考えて、動いてた」
男の答えに。深命は目を伏せて、考えたことを口に出す。
「……今回はかくれんぼだから、物が多い場所に来させられた?」
「そういうことだな。……だが、それが分かったからといって、ここから抜け出せるわけじゃねえ。むしろ、その逆だ。俺たちは、嫌でもゲームをさせられている」
「……ですよね。しかも、殺しあうように煽られて。これからもっと、悪い状況になるんでしょうか」
「……さあな。俺には何とも言えねえよ」
闇の中で続けられていた会話は、そこで途切れる。ホリーが小さな、けれどしっかりとした声で、口を挟んだ。
「どうなっても、私はおじさんから離れないよ。あの人になんて言われても」
少女の声が、室内に響く。それに対して、浦見は笑って告げた。
「安心しろ。こうなったら、最期まで俺はついていくさ」
1/安堵
「気がかりなことが除かれ、安心すること」
この後書き内での説明は、コトバンクのデジタル大辞泉から引用したものです。




