第51話:選択(後編)
その瞬間に、外から小さな音が聞こえた。誰かが何かを投げる音。
「……なんだ?」
浦見が様子を見るために、窓に近づく。深命もその後に続いた。そして2人とも、外の光景を見て言葉を失う。
「クソ、来るな、来るな……!」
積み木の裏に隠れていた男が、イモムシに見つかって食われそうになっている。彼の足元には小さなブロックが落ちていて、少し視線をそらした先では、若い女性が大量のブロックを固めた中に隠れていた。イモムシが男を飲みこむと同時に、彼女はブロックを1つ取って、遠くに投げる。ブロックが床に当たる音は、先ほど聞こえてきたものと同じだった。
「……あの、おじさん」
すぐに窓から離れながら、深命が低い声で言う。
「僕たちはあなたの提案に乗ります。僕ら2人で出ていったら、1時間も保ちませんから」
その言葉に、男は何も言えなかった。彼は無言で室内に戻り、地下室の扉を持ち上げる。
「……おじさん」
ホリーが彼の方を見た。坂井は彼女を抱きあげて、浦見に近づく。
「もう下りるの?」
「ああ。……俺が思っていたよりも、事態は急を要するらしい。外に出たら、望まなくとも殺しあうことになる。……深命の言うとおりだ。俺はお前らを、そんな目に遭わせたくねえ。……来てくれるな?」
真っ暗な穴を見つめたまま、男は低い声で告げる。子供たちは、その背を見つめて頷いた。
「大丈夫よ。ねえ、ホリーちゃん」
「うん」
「……ボクは少し怖いから、たくさんお話してほしいけど」
「平気だって。僕もいるし」
4人がそれぞれ、違った形で答える。浦見はそれに背中を押されて、再び穴の中に飛びこんだ。
「……よし、来い!」
しばらくして、穴の底から声がする。坂井はホリーを抱えたまま、思いきって飛び下りた。落下感と浮遊感。そして、その先で。彼女は大きな腕に、抱き止められる。
「……おじさん?」
「おう。……怪我はないな?」
聞き慣れた温かな声が耳に届く。ゆっくりと床に下ろされた少女は、上を見ながら大声で叫んだ。
「……ねえ、聞こえる? おじさんは、ちゃんと受け止めてくれたわよ! だから勇気を出して!」
「……聞こえたよ! 今から、行くね!」
上から十矢の声がする。浦見はスッと腰を落として、腕を広げた。最初に十矢。次に深命が、扉を閉めながら下りてくる。その両方を、下で待って。全員が集まったところで、浦見はようやく、安心したような声をだした。
「……何とか、閉じこもることはできたな。ここまでは予定どおりだ」
1/事態
「物事の状態、成り行き」
2/急を要する
「急いですべきである。緊急を要する」
この後書き内での説明は、コトバンクのデジタル大辞泉から引用したものです。




