第49話:信頼
「そういうの、やめた方がいいですよ」
深命が、困ったように眉を下げる。
「おじさんは、誰かを犠牲にできるような人じゃないでしょう」
「……そうだな。そんな覚悟はねえ」
視線をそらして、浦見は呟く。坂井が微笑ましげに、目を細めた。
「本当に、意地っ張りな人なんだから」
その場に穏やかな空気が漂う。十矢がホッとしたような様子で、口を開いた。
「……ボクは、暗いところも平気だよ。だから地下室に逃げるのは、いい案だと思う」
「まあ、他に方法がないならね。今はとりあえず、ここでジッとしているのが1番じゃない?」
友人の言葉に、深命が頷く。外のイモムシが塔にぶつかり、建物が少しだけ揺れた。
「……大丈夫か?」
しばらくしてから、浦見が周囲を見渡して聞く。子供たちは、黙って首を縦に振った。
「お知らせでーす」
電子音が、そこに割りこむ。
「ただのかくれんぼも、そろそろつまらなくなってきたでしょ? そういうわけで、スパイスだよ。誰かの隠れ場所を鬼に知らせたら、特別ボーナス! もちろん自分は見つからないでね。それじゃ、頑張って〜」
音声は、聞こえ始めた時と同じように唐突に切れる。浦見は眉を寄せて、深いため息をついた。
「……なに考えてんだ。そんなこと……」
男がそう言いかけたとき。外を人影が通りすぎる。その人物は、最初に浦見たちが隠れていたぬいぐるみを押して、イモムシの近くに運び始めた。
「……オイオイ、まじか」
窓の穴から、その姿を覗き見て。彼は冷や汗を流しながら、小さく低い声で言う。イモムシはぬいぐるみにぶつかって、大きな口を開けた。ぬいぐるみごと、運んだ人も飲みこまれる。
「……良かったですね。移動していて」
同じ光景を、隣の穴から見つめながら。深命は真顔で、言葉を落とす。
「それにしても、本当に他の参加者を犠牲にする人がいるなんて。まあこんなところでは、仕方のないことかもしれませんが」
「……もういいでしょ」
部屋の中で、坂井が告げる。彼女は厳しい表情を浮かべていた。
「他の人のことなんて、どうでもいいわ。とにかく、私たちは協力してここから出る。それでいいでしょ?」
「……うん。もちろん」
十矢が真っ先に、声をだす。深命は窓から離れて、友人の側に近づいた。
「……俺もお前らのことは信じてるさ。だが……」
浦見が渋い顔のまま、地下室の方に目を向ける。
「これからは、他の参加者が敵になると思うと、気が滅入な。あの部屋も、人にはすぐに見つかるだろうし……」
彼の言葉に、室内の空気が重くなる。子供たちは、浮かない表情で男を見ていた。
1/気が滅入る
「陰気で憂鬱な気分になる。元気がなくなる」
この後書き内での説明は、コトバンクのデジタル大辞泉から引用したものです。




