第47話:ギクシャクする関係(前編)
「私たち、おじさんのことは信じてるから。だから何かするときは、ちゃんと説明してからにして。お願い」
ホリーの目から、大粒の涙が流れだす。水滴は、頬を伝って床に落ちた。坂井が慌てて膝を折り、その体に手を添える。浦見は苦い顔をして、穴から抜けだしつつ言った。
「……ああ、そうだな。今のは俺が悪かった」
「本当よ」
坂井が彼を睨みつけて、切りつけるような口調で返す。
「しっかりしてよね。ホリーちゃんにとって、あなたはお父さんみたいなものなんだから」
「……父親、ねえ」
眉間にシワを寄せながら、男は床に座りこみ、硬い声で続ける。
「俺に、そんな役が務まるとは思えんが」
「あなたの能力は関係ないわ。大事なのは、ホリーちゃんの気持ちだもの」
「……そうかよ」
キッパリとした坂井の言葉に、浦見は頭をかきながら目を伏せた。気まずい沈黙が、その場に満ちる。
「……た、大変そう、だね」
しばらくして。最初に言葉を発したのは、十矢だった。
「あの、その。ボク、ちょっと外を見てみるよ」
そう告げて。彼は壁の四角い穴から、外を見た。イモムシは既に、ドールハウスから離れて、部屋の中を這っている。
「……あの虫は、まだいるね」
「そもそも、今回はいつ終わるかも知らされてない。みんな死ぬまで、終わらないのかもしれないよ」
友人の声に、深命が続ける。浦見は深いため息をついて、顔を上げた。
「……だとしても、俺たちは生き残るために、できることをしなけりゃならん。いざとなれば、あの地下室も使ってな」
彼の目線の先では、坂井が自分の服のソデで、ホリーの涙を拭っている。
「まあ、俺はともかく、お前らを入れるのは最終手段だ。戻れなくなるのは、嫌だろうしな」
「……当たり前でしょ」
坂井は、彼と目を合わせないまま口を開いた。
「ホリーちゃんだって、怖いわよね? 光も差さない地下室に入るの」
「……う、うん……。……でも。おじさんが一緒なら、頑張るよ」
彼女は鼻をすすりながら、懸命に話す。その姿を見て、少年たちと坂井の視線が、浦見の方に向けられた。
「……まあ、そんときは俺も、覚悟を決めてつきあうさ」
彼は子供たちの目を見ながら、真剣な顔で言葉を落とす。
「具体的には、あのイモムシがこの塔に向かってきたときってことになるが。下に行くなら、俺が先に下りて、お前らを受け止めるしかねえ。奴の大きさで、ここには入れねえだろうし……。あれとは別に。もし、小さな奴が現れたとしても。床の戸が開けられるとは思えねえから、下なら安全だろうと踏んではいるが……。ぶつかられて、塔自体が倒れるようなことがあれば分からねえな」
1/務まる
「その任務を果たすことができる」
2/踏む
「前もって見当をつける。見積もりや値ぶみなどをする」
この後書き内での説明は、コトバンクのデジタル大辞泉から引用したものです。




