第46話:移動(後編)
床に置かれた、積み木やブロック。ぬいぐるみなど、様々な物の裏に隠れながら、5人は塔を目指して進む。模型の形は3階建てだが、土台に厚みがあるせいで、高さは4階建てに近い。
「……ホリーちゃん、大丈夫?」
「うん。このくらいなら、平気だよ。お姉ちゃんは?」
「私はいいの。ホリーちゃんが無理してないなら、それだけで」
塔の前にたどり着いて。傾斜のキツい階段を、助けあって上りながら。少女たちは互いを気づかう。その後に、少年たちもついていった。浦見は子供たちが塔の中に入ったことを確認してから、素早く階段を駆けあがる。
「……よし。全員無事だな。あとは……」
息も切らさず、男は室内を見渡した。円形の床と、螺旋階段。色々なところに、四角い穴が空いている壁。その中で、彼は床に目をつけた。
「……やっぱりか」
床の端に、金具がついているタイルがある。浦見はそのタイルを持ち上げて、呟いた。タイルの向こうには、光が差さない、真っ暗な空間が広がっている。
「……おじさん、それは?」
「地下室だ。……あるだろうとは思っていたが、予想より暗いな。電気も通ってねえだろうし……」
深命の問いに、彼はため息まじりの声で答える。どこまでも続いているかのような、真っ暗な穴。だが。
(外から見た感じだと、そこまで高くはねえはずだ)
そう考えて、彼は自分から、闇の中に飛びこんだ。そしてゆっくりと、狭い地下室を見てまわる。
(暗いだけで、他に問題はなさそうだな)
彼がひと通り見終わったころに、上の方から声がした。不安そうな、ホリーの声。
「……おじさん。生きてる?」
「……おう、なんとかな。予想してたが、ここに罠はねえみてえだ」
浦見はそれに、声を張り上げて返す。深命が、身を乗りだして手を伸ばした。
「……掴まってください。みんなでどうにか、引き上げます」
「要らねえよ。お前らと俺の体重に、どんくらい差があると思ってんだ。いいからお前は、そこをどけろ」
男は真顔で言い返す。少年は首を傾げながらも、彼の言葉に従った。子供の姿が見えなくなったのを確認して、浦見は少し後ろに下がり、助走をつけて飛び上がる。そして彼は手を伸ばし、上に開いた穴のフチに、なんとか上体を引っかけた。
「……ほらな。俺はこんくらい、できるだろうと思って下りた。こっちに戻ってこられないようなことを、俺がするわけねえんだよ」
一連の動きに、目を丸くする子供たちを見ながら。ぶっきらぼうに、彼は告げる。ホリーは目を伏せて、小さな声で呟いた。
「……だったら最初に、そう言って」
少女の声は震えている。その目には、わずかに涙がたまっていた。坂井が労るように、彼女の肩に腕を回して、しゃがみこむ。ホリーはギュッと、両手を握りしめた。
1/傾斜
「傾いて斜めになること。また、その度合い。かたむき」
2/上体
「人間のからだの腰から上の部分。上半身」
3/一連
「関係のあることのひとつながり」
4/ぶっきらぼう
「物の言い方や挙動などに愛想がないこと。また、そのさま」
5/労る
「弱い立場にある人などに同情の気持ちをもって親切に接する。気を配って大切に世話をする」
この後書き内での説明は、コトバンクのデジタル大辞泉から引用したものです。




