第45話:移動(前編)
「……何よ、それ」
坂井が驚きで目を見開き、口を開ける。ホリーは浦見の服のすそを、軽い力で引っぱった。
「……ねえ。それで、どうするの?」
その声に。子供たちが、男を見る。彼は真顔で、言葉を落とした。
「……正直に言えば、俺にもどうするべきかは分からん。最初の場所と同じように、ここにも罠があるようでな。今、俺が把握しているのは、例の箱だけだ。しかも見つかれば死ぬとなると、どうやって隠れ場所を探すか……」
「……あの、思ったのですが」
話の途中で、深命が割りこむ。彼は淡々とした口調で続けた。
「びっくり箱の中に、人形が飛びだす仕掛けがあって。それが罠だったなら、ここにあるオモチャは、現実にある物と同じなのではないでしょうか。……つまり、その。見た目である程度分かるかと……」
少年の言葉に、男が黙って目を背ける。坂井は苦笑を浮かべて、彼の代わりに口を開いた。
「おじさんには無理よ。子供どころか、奥さんがいるかも怪しいわ」
そう言われて。浦見は苦い表情になり、少年たちは納得顔で頷いた。ホリーがクスリと笑って呟く。
「……私、分かるよ。動くかどうかは」
「……まあ、僕たちも知識がないわけじゃないけど……」
彼女を見つめて、深命が柔らかな笑みを浮かべた。
「たしかに、ホリーちゃんに聞く方がいいかな」
「うん、任せて」
胸を張って、少女は男の腕を引く。
「行こう、おじさん。向こうのオモチャなら、動かないよ」
ホリーが指し示したのは、壊れた壁とは反対の位置に置いてある、小さな塔の模型だった。今いる列車と同じように、窓の部分には穴が空いている。
「……なら、行くか。今のうちに」
そこは、浦見も目をつけていた場所だった。だが、彼はそのことは話さず、少女の言葉に笑って返す。十矢は外を覗き見た。
「そう、だね。あのイモムシも、まだ動いてないから」
5人は揃って、列車から出る。そこで深命は、一瞬だけ。びっくり箱の方を見た。
「……気にしてる?」
「……うん、少し」
十矢の問いに、彼は真剣な顔で答える。
「瑠衣も、みんなも。優しいから、僕のことを許してくれてる。でも、だからこそ。僕は彼の死を、忘れちゃいけないと思うんだ」
「……他の人はともかく、ボクは優しいからじゃないよ」
友人に向かって、小さな声で。十矢は告げて、目を伏せる。
(……だって、ボクは。根巳くんがいなくなったことで、楽になったと思っているから)
それは言葉に出せない彼の本音だ。そして。
(……多分ホッとしてるんだろうな)
十矢の様子が変わったことに気づいたのは、歩きながら何度も後ろを振り返っていた浦見だけだった。
1/把握
「しっかりと理解すること」
2/背ける
「視線や顔をそらす」
3/目をつける
「特別な注意を向ける」
この後書き内での説明は、コトバンクのデジタル大辞泉から引用したものです。




