第38話:鬼の出現
やがて。残った参加者のうち、半数が物陰に隠れた後に。室内に、大きな黒いイモムシが現れた。目も耳もない奇妙な生物は、隠れなかった人間たちを見つけると同時に、一口で飲みこむ。そして再び、地面を這って進み始めた。
(あれが、鬼か)
ぬいぐるみの服の下から、その様子を見て。浦見は険しい顔をする。彼の横にいる根巳が、小さな声で聞いてきた。
「……どう? 相手、危ないヤツじゃなさそう?」
「……さてな。音が聞こえてるかどうかは分からんが、隠れてない奴らを真っ先に食ったところを見ると、今回もルールには沿ってるんだろ。あまり長く、外に出るのは危険かもな」
答えながら、男は目の前の布を下ろす。そして薄暗く狭い場所で、彼は少年と向きあった。
「でも、放送では隠れ場所を変えてもいいって話だったよね? 隙を見て、もっかいみんなで集まれないかな」
「……そうだな」
根巳の言葉に、浦見はため息と共に返す。
「俺も、いつまでもここにいる気はない。だが、動くにしても。もっと相手を観察しておきたいんだ。例えばだが、決まったルートがあるんなら、常に裏を取り続ければ生き残れるだろ?」
「あー、確かに。……おじさんって、ホント色々考えてるんだね」
少年が感嘆の声を上げる。彼の黒い瞳は、キラキラと輝いていた。その目を見て、男は苦笑を浮かべる。
「何度も言ってるが、俺は何でもできるような、器用な男じゃねえからな? あまり期待しすぎるなよ」
「分かってるって。……ねー、おじさん。オレのことを話したんだし、おじさんのことも聞かせてよ。何か、面白いこととかあった?」
根巳がニコニコ笑顔で言う。浦見はもう1度、ため息をついて続けた。
「……面白いことなんざねえよ。部下と一緒に、連続殺人犯の疑いがある男を追ってただけだ。捕まえたか、それとも逃がしちまったのか。それはまだ、思い出せてねえしな」
「おじさんなら捕まえられてるでしょ。あんなに強いんだし」
「バカ野郎。疑いだって言っただろ。確信が持てるまで、動けねえよ。俺たちは市民を守る側だ」
気軽な口調の少年に、釣られて男も言葉を崩す。それを受けて、根巳はクスクスと笑っていた。
(……しっかしなぁ。十矢の奴は、何を思い出したんだか……)
快活な彼は、浦見の目からは、何も問題など無いように見える。ならばと男は考えた。
(……こいつは気にしてなかったとしても、何かのきっかけで失言してて、その記憶だけが戻ってきたのかもしれねえな。そうだとしたら、話し合いでも解決できる。……俺としては、それが1番望ましいな)
1/感嘆
「感心してほめたたえること」
2/快活
「気持ちや性質が明るく元気のよいさま」
3/失言
「言うべきではないことを、うっかり言ってしまうこと」
4/望ましい
「そうあってほしい」
この後書き内での説明は、コトバンクのデジタル大辞泉から引用したものです。




