第32話:2日目の夜(後編)
「……あの人って、特別だよね」
テントの中心に立てられた木の枝を見つめて、根巳が呟く。
「1人だけ、明らかに年が違うし。あの部屋でも、目立ってたけど」
「……確かに。背も高いし、1番最初に目についたのは、あの人かも」
深命が友人の言葉に同意する。このゲームが始まった時のことを、彼らはよく覚えていた。
「僕たちはあの白い部屋から動けなかったのに、あの人は真っ先に、外に出た。ゲームにだって、すぐに参加を決めていて……」
「ちょっと待って」
坂井が冷たい声をだす。彼女は少年たちを睨んだまま、言葉を続けた。
「おじさんは、全然本気じゃなかったわよ。ただ、なりゆきで、私とホリーちゃんを守ってくれただけ。勘違いしないで」
「……それは、ごめん」
少女の迫力に、何も言えなくなった根巳の代わりに。深命が頭を下げた。彼女はため息をついて返す。
「……別に、わざわざ謝らなくていいわ。あなたたちにも、悪意があったわけじゃないんでしょ」
テントの中に、気まずい雰囲気が漂う。十矢が小さな声で言った。
「……うん。ボクも、あの人のことは好きだよ。最初は怖かったけど、優しい人だって分かったから」
その場の空気が緩む。根巳が床に座りこんで、入口の方に目を向けた。
「警察官の、浦見さんか。あんなに強い人まで、ここに連れてこられるなんて……。ゲームって、いったい誰が、何のためにしているのかな」
その問いは、誰もが考えることだった。記憶もなく、見知らぬ場所にいる。状況は同じだ。
(……それはそうよね)
離れた場所で、坂井も同じように腰を下ろす。彼女は自分の膝を、両腕で抱えた。
(おじさんも、私たちも、あの子たちも。この、わけの分からない場所から出られない)
寂しげに、目を細める彼女に。ホリーが自分の体を寄せた。
「……平気だよ」
透明な目をして、少女は告げる。
「お姉ちゃんは、1人じゃないから」
「……ええ、ありがとう。ホリーちゃん」
坂井が表情を和らげる。2人は並んで、笑いあった。
「……ねえ。坂井さんって、笑うとかわいいよね。今まではキツイ感じだったから、気づかなかったけど」
その姿を見て、根巳はひそめた声で言う。十矢は目を丸くして、深命は渋い顔をした。
「……本当、裕太のその気楽さだけは尊敬するよ。見習いたいとは思わないけど」
友人の言葉に、根巳は不思議そうな顔をする。その様子を見て、十矢は笑いそうになった。口元を押さえて、彼はそっと目をそらす。こうして穏やかな空気の中で、子供たちの夜は更けていった。




