第31話:2日目の夜(前編)
日が傾くまで、歩き続ける。景色はまったく変わらない。
「……この辺でいいか」
森の中で、浦見は呟き足を止める。彼は側にある大樹を見上げて、言葉を続けた。
「このくらいの木の枝なら、俺が持ってる包丁で折れる。そいつを使えば、テントも張れる。後はスペースを探すだけだが……」
「それくらいなら、私たちにも手伝えるわよ」
坂井が言って、男の方に視線を向ける。浦見はそれを受けて、表情を少し緩めた。
「……ああ、なら、頼む。この木の裏に、草むらがあるだろ。それを潰して、平たくしてくれ」
彼の言葉に、子供たちが頷く。彼らは大樹の向こう側に回りこんで、そこに生えている草を押し潰した。その姿を横目に、浦見は大樹の上に登る。
(よし。思った通りの、丈夫な木だ)
男が上に乗っても、大樹の枝はびくともしない。彼は懐から包丁を取り出して、子供たちの位置を確認した。
(向こう側に固まってるなら……。こっちを切れば、あいつらには当たらねえだろ)
太い枝に、包丁の刃を食いこませる。当然、そんなことをすれば、刃の方も欠ける。だが浦見には、体術があった。拳銃にも、まだ弾は残っている。最悪、包丁が使えなくなってもいいと思って。彼は懸命に、手を動かした。太い枝の先の方を、どうにか切って下に落とす。
(……よし。これで……)
木の上で、彼は深々と息を吐く。地上にいる子供たちは、心配そうな顔をしていた。
(……色々と問題はあるにしても、基本は素直なんだろうな。俺には勿体ないくらいだ)
浦見はため息をつきながら、木の幹を伝って下に降りる。深命は、たたんだテントを取り出して聞いた。
「支柱は1本でいいんですか?」
「ああ、多分な。その形なら、中心を支えるだけで張れる」
淡々とした声で答えて、浦見は落ちた枝を拾う。子供たちは興味深げに、彼の動きを見守った。男は真っ黒な布を草の上に広げて、ペグの代わりに削った小枝を差した。そして真ん中に、先ほど切った枝を立てて、布がピンと張るようにする。
「……すげー……」
手際の良さに、根巳が感嘆の声を上げる。黒いテントを張った男は、真顔で告げた。
「言っとくが、俺は門外漢だからな。見た目は良くても、ちゃんと使えるかは分からねえぞ」
「……だ、大丈夫、です。ありがとうございます」
十矢がオドオドとしながら言って、友人と共にテントに入る。坂井は笑って、その後に続いた。
「あのね、おじさん。私たちは、信じてるよ」
最後にホリーが、そんな言葉を残していく。浦見は無言で、黒いテントを見つめた。
1/丈夫
「物が、しっかりしていて壊れにくいさま」
2/ペグ
「テントを張るときに用いる杭」
3/手際
「物事の処理のしかた。また、物事を処理する要領・腕前」
4/感嘆
「感心してほめたたえること」
5/門外漢
「その物事について専門家でない人。畑違いの人」
この後書き内での説明は、コトバンクのデジタル大辞泉から引用したものです。




