第29話:埋葬(前編)
そんな穏やかな空気を、壊すように。浦見が寄りかかっている木の裏から、大きな物音がした。男はすぐさま立ち上がり、音がした方を見る。
「……たす、け……」
地面に赤い血だまりができている。その中央に、見知らぬ少年が倒れていた。黒い人影が、3人。少年の周りを取り囲んでいる。
(……くそ!!)
浦見はひと目で理解した。少年はもう、手遅れだと。だが、それでも。体は動き、男は人影を蹴り飛ばす。他の2人が、彼を見た。表情の見えない、真っ黒な顔にも。彼は怯まず、殴りかかる。
「……だれ……?」
赤い血だまりに、仰向けに寝て。少年が、か細い声を出した。
「たすけて、くれるの……? 痛い、寒い、怖いんだ……。ぼく、しんじゃう、のかな」
その声に、男は舌打ちをした。黒い人影を一掃しても、少年が助かることはない。
「……大丈夫だ。あいつらは、いなくなった」
それでも、浦見は少年の手を取って言った。子供は安心したように微笑んで、そのまま目を閉じる。
「……そっ、かあ……。あり、がと……」
少年の体から力が抜ける。側の草木が揺れて、そこから坂井が顔を出した。
「ねえ、その子は……」
男は黙って、少年を見つめた。胸の鼓動が止まり、体温が失われていく様子を。見守った後で、彼は告げる。
「血を流しすぎたからな。……もう、無理だ」
「……そう」
坂井は、特に追求しなかった。少年の手を握ったままの彼に向かって、彼女は平静を装って続ける。
「可哀想だけど、仕方ないわね。せめて埋めてあげましょう」
彼女の後ろから、ホリーが出てくる。そして同時に、少年たちも。
「うわ、ひど……」
「……裕太、瑠衣。僕たちで、こっちに穴を掘ろう」
顔をしかめた根巳の手を引いて。深命は、彼をその場から遠ざける。そして2人は十矢と一緒に、柔らかな地面を手で掘った。根巳は最初、爪に土が入るのを嫌がったが、ホリーが無言で手伝い始めたのを見て大人しくなる。その間も、浦見は少年の遺体を見つめ続けた。
「……おじさん」
やがて。仕事を終えたホリーが、小さな声で話しかける。男は無表情のまま、少年の遺体を抱え上げた。スーツと手に、赤い血がつく。
「……すまねえな」
冷たくなった体を運びながら、彼は呟く。消え入りそうな声を耳にしたのは、側にいた坂井だけだった。彼女は険しい顔で、男の背を見る。
(……大丈夫かしら)
彼は以前に言っていた。1人では、対応しきれないこともあると。だが、実際に。目の前で子供が亡くなれば。優しい彼は、きっと自分を責めるだろうと。少女は思って、目を細めた。
1/一掃
「すっかり払いのけること。一度に払い去ること」
2/平静
「2 態度・気持ちが落ち着いていること。また、そのさま」
3/装う
「表面や外観を飾って、他のものに見せかける。ふりをする」
この後書き内での説明は、コトバンクのデジタル大辞泉から引用したものです。




