第28話:休息
そうして。森の中の細い道を、800メートルほど進んだところで。最後尾にいる根巳が口を開いた。
「ねー、オレ、疲れた〜。そろそろ休んでもいいんじゃない?」
彼は明らかに、息が上がっている。その様子を見て、浦見は足を止めた。
「……おう、そうだな。かなり離れたし、ここらで1度、休憩するか」
「やった! ありがと〜!」
男の言葉を聞いて、根巳はすぐにその場に座る。横にいた十矢も、彼のマネをして膝を折った。深命と坂井も、先に進むのをやめて息を吐く。
「……ねえ、ホリーちゃんも座ったら? 歩き続けるの、大変でしょ」
「……うん。お姉ちゃんも」
彼女に声をかけられた子供は、小さく頷いて制服の袖を引っぱった。そして2人は、揃って地面に腰を下ろす。その目の前に、深命はペットボトルを差し出した。
「……あの。そろそろ、どうかな。1本しかないから、先に君たちが分けて飲んで……」
「別にいいわ。喉、乾いてないし。……考えてみれば、ずっとそうなのよね。食べ物も飲み物も、特に欲しくならないの」
坂井は目線をそらし、言葉をこぼした。深命がお茶をしまって、ホリーが不安げな顔をする。
「……まあ、だとしても。いいって言うなら、もらっておけよ」
そんな中で、浦見は腕を組みながら告げた。他の者と違って、彼だけは木にもたれかかって立っている。
「……おじさんはさー、疲れないの?」
その様子を見て、根巳が聞いた。明るい声には、相手を心配するような調子が混ざっている。
「……ああ、まあ……」
男は目を伏せて、言葉を返した。深命がまっすぐに、彼を見つめる。
「だけど、いざという時に動けなかったら困るでしょう」
その言葉がきっかけになって、子供たちの視線が彼に向かう、浦見は深いため息をついて、木にもたれたまま座りこんだ。
「……これで満足か?」
「ええ、もちろん。……おじさんは、ずっと動いてくれてるものね。ありがとう」
「……それは」
坂井の言葉に、男が渋い顔をする。彼女は気にせず、話を続けた。
「おじさんが、なんて言っても。私はおじさんに感謝してるわ」
「……私も」
少女の言葉に、ホリーが続ける。浦見は言い返そうとして口を開いたが、言葉は出てこなかった。その姿を見て、根巳が楽しそうに笑う。
「おじさんはさ、いい人になろうなんて、思ってないのかもだけど。ちょっと話しただけでも、元の性格って出てくるんだよ。特にこういうところだと」
「……るせえよ、ガキが」
男は低い声で言う。だが、子供たちは動じなかった。深い森に、軽い笑い声が響く。木々の葉が揺れて、止まっていた小鳥が飛びたった。
1/調子
「言葉の表現のぐあい。音声の強弱や、文章などの言い回し。口調。語調」
2/動じる(動ずる)
「動く。特に、心が動揺する。平静を失う」
この後書き内での説明は、コトバンクのデジタル大辞泉から引用したものです。




