第22話:移動(後編)
目印を辿って森を歩く。その途中で、浦見は少し左にそれた。
「おい、こっちだ」
前を進んでいた坂井が、彼の言葉に首を傾げる。
「どうしたの? 前に通ったところなら安全なんでしょ? それなら……」
「そっちは何度も通ってるから、草木が潰されてて目立つ。だからカモフラージュに使った方がいい」
森の中は少しずつ、薄暗さが増してきている。これ以上、先に行くことはできないと。彼は思って、真顔で続ける。
「深夜に歩くのは危険だ。特にこんな森の中なら」
「……ええ、そうね」
坂井は頷き、ホリーを連れて、彼の方に歩み寄った。少年たちが戸惑って、立ち止まる。
「それでオレたち、どこで寝るの?」
「草むらの中だ。下に草を多めに敷いて、上にも草を被せてやる。それなら多少は、見つかりづらくなるだろう」
根巳の問いに答えながら。彼は少し奥まった場所で、寝床を整え始めた。数は2つ。
「……おじさんの分は?」
その様子を見て、十矢が聞く。浦見は表情を変えずに答えた。
「俺はできるだけ、起きて周りを見張っておく。気にすんな。徹夜の張り込みは慣れたもんだ」
男は隙間を大きく開けて、2箇所の草むらをへこませる。そして、黒い包丁で遠くの草を刈って、そこに持っていった。
「……おじさんは、どうしてそこまでしてくれるの?」
無言で作業を続ける男を見ながら、根巳が小さな声で呟く。浦見は目を細めて、言葉を返した。
「仕方ねえだろ。これが俺の性分だ」
草を積み重ねながら、彼は渋い顔をする。
「確かに、お前らを見捨てれば身軽になる。その方が、生き残れる確率も上がるだろう。だが、そうして生き残ったところで、寝覚めが悪くなるだけだ。なら、俺はできることをするさ」
少年たちが神妙な顔をする。浦見は草で作った寝床を見下ろして、わざと冷たい声で告げた。
「……それに。俺がいても、守りきれねえことはあるだろう。お前らが死んじまったとき、自分にできることをやってたんなら、俺の気持ちも楽になるしな。だからこれは、俺のためだ」
「……ハイハイ。分かってるわよ」
坂井がホリーを抱えて、草の上に寝転がる。男は、その上に更に草を置いた。少女の体が埋もれていく。
「……おじさんって、不器用だね」
根巳が笑って、もう1つの寝床に入る。十矢と深命も、彼に抱きついて寝そべった。少年たちの体も、草で隠しながら。浦見は少し、ぶっきらぼうな調子で言う。
「……うるせえよ」
彼としては、精一杯。突き放しているつもりだった。それなのに、なぜか懐かれている気がする。
(……まあ、こんな状況だからな。大人ってだけで、頼りはするか)
そう、自分を納得させながら。彼は近くの木に背を預けて、その場に座りこんだ。
1/神妙
「態度がおとなしく、すなおなこと。また、そのさま」
この後書き内での説明は、コトバンクのデジタル大辞泉から引用したものです。




