第12話:追っ手との遭遇、1回目
草木をかき分けながら、3人は森の中を進む。地面に落ちている細かい枝や、見たこともない木の実のような物を踏みながら、坂井が小声で問いかけた。
「……ねえ。私たち、どこを目指してるの?」
「まずは水場だ。川の流れる音が聞こえねえか、さっきから耳をすませてるんだが……」
浦見が低い声で答える。先ほどの場所とは違って、まともな道のない森の中は、とても歩きづらかった。彼は少女たちを気づかって、ときおり後ろを振り返る。3人はそのまま先にいって、少し拓けた場所に出た。背後の草むらが揺れる。男が足を止めると同時に、草むらの中から人が出てきた。その人物は全身を黒いタイツで覆い、顔を隠している。性別も分からない、黒い人影。その姿を見た瞬間に、浦見は嫌な予感がした。ほとんど反射的に、彼は人影を殴りつける。そしてその人物が怯んだ瞬間に、男は少女たちの手を引いて走った。人影が彼らを追いかける。
「……ど、どうするのよ?!」
坂井が焦った様子で叫ぶ。浦見は彼女たちを先に行かせて、追っ手と向かいあった。黒い人物は、片手にナイフを持っている。
(多分マトモな相手じゃねえな)
ナイフを振りかざして襲ってきた人影の腕を掴んで、懐に潜りこみ、彼は相手を背負い投げる。地面に倒れた相手は、霧となって消えていった。
「……どうなってんだ」
人影が消えた場所に、唐突に。ペットボトル入りのお茶が出現する。コンビニにあった物と同じように見える、それを拾って、男は苦い表情を浮かべた。離れた場所から見ていたホリーが、彼に近づいてその顔を見上げる。
「すごい。おじさん、強い」
「……まあな」
浦見はため息をついて、少女にペットボトルを渡した。
「……飲むか?」
金髪の少女は、ペットボトルを受け取って大事そうに抱える。そして坂井の側に戻り、両手でそれを持ち上げて差し出す。
「どうぞ」
「……ありがとう」
呆気に取られていた彼女は、しゃがんで少女と目線を合わせた。
「……でも、それはホリーちゃんが持ってて。おじさんも、その方が嬉しいと思う」
「そうなの?」
「そうだよ。きっと」
ホリーは首を傾げて聞く。その瞬間に、短く切り揃えられた金髪がサラリと揺れた。坂井は少女の頭に手を置いて、優しく撫でる。
(……俺は別に、どっちが持っていてもいいんだが)
離れた場所で見守っていた浦見は、そのやり取りを目にして苦笑を浮かべた。ずっと硬い顔をしていた黒髪の少女が、ようやく表情を和らげている。そこに水をさすほど、彼は空気の読めない男ではなかった。
1/呆気に取られる
「思いもかけないことに出合って驚きあきれる。また、どうしてよいかわからないでぼんやりする」
2/水をさす
「仲のいい者どうしや、うまく進行している事などに、わきから邪魔をする」
この後書き内での説明について。
1はコトバンクの『精選版 日本国語大辞典』から、2は『デジタル大辞泉』から引用したものです。




