空飛ぶドラゴンの謎
「とりあえず名前を付けてやりなさんな。コイツじゃ可哀そうでしょ」
「名前ですか……」
考えたことも無かった。すぐにミトナが「はーい」と手をあげる。俺はどうぞ、と彼女に提案を促した。
「リオレ〇スなんてどうでしょうか!今さっきインターネットで調べた人気のドラゴンの名前らしいですナ!」
「「絶対ダメ」」
「えー、響きも良いですのニ…」
「じゃ次、ハル君」
「えー……。じゃあ、ロックで」
「あら、意外とまともな名前。名づけの意味は?」
「特にない……わけじゃないですが、岩のように頑丈に育ってほしい、みたいナ」
自分で言ってて恥ずかしくなってきた。でも実際頑丈に育ってほしいのは事実だし、いいよね?
「ロック、いい名前だよな?」
ちびミズチに聞く。「きゅう」と首を傾げたが、嫌がっては無さそうだった。
「よーしお前は今日からロックだ。ロック、いいな?」
俺はロックを精一杯撫でた。ロックも嬉しそうに喉を鳴らしている。
「適当な……ま、あんたらしくていっか」
「きゅるっ!」
俺の代わりにロックが元気よく返事をした。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
それから俺は三代さんにオオミズチのフンと毛を提出し、これまで旅のレポートを提出した。それを読みながら、三代さんは「ふーん」と雑な相打ちをしながら斜め読みをしている。
もうちょっと真剣に読んでくれてもいいんじゃないか?一応命がけだったんだけど……。
「なーるほーどねー。要するに、この子は親から見放されちゃったわけなんだ」
「そんな感じです。
きっと俺のジャンパーの匂いが着いちゃったから、自分の子供だって思われなかったんだと」
「命の責任、ってやつかねぇ」
最後の一ページをめくったところで、三代さんが眉をひそめた。
「ところでハル君、本題が書いてないんだけど」
「本題って?」
「どうしてあのドラゴンが空を飛べるのか、結局濁した書き方のままじゃん。なんなの?」
「あー、それは……見たほうが早いか」
「見せる?」
俺はロックを滅菌室の床に下ろす。
「ロック、ジャンプ!」
ロックの少し上方で手を叩いた。ロックは最初なんの事か分かっていなかったように首をかしげていたが、ジェスチャーが伝わったのか軽くジャンプして俺の手に鼻先を付けた。
「そのままステイ」
俺の手のひらに鼻先を付けたまま、バサバサと羽ばたいてホバリングしている。ミトナが感心の声を上げた。
「はえー、めっちゃ賢い子ですネ」
「お前より賢いかもな」
「殲滅モード起動しますよ?」
「……ごめんなさい」
「でもほら、ご覧の通り。これがオオミズチが空を飛べた理由ってワケです」
「へっ?」
素っ頓狂な声をあげる三代さんに目を向けながら、俺はロックの尻尾の方を指さした。尻尾の先には丸い球のような器官がついていて、それはリズムよく上下しながら滅菌室の床をコンコンと叩いていた。
「この球が理由なの?」
「はい。”平原”のルールは厳密には【1.5秒以上、地面から身体が離れてはいけない】だと思います。オオミズチは尻尾の球を地面につけてルールを回避しながら、疑似的に空を飛んでいたって訳です」
「なるほど、倒れていた芝草はドラゴンが飛んでいった後っていうことですネ!」
「そういうこと。収斂進化とも言うべきなのかな、ちゃんとオオミズチも異世界のルールに合わせて行動や体組織を進化してきたってことだな」
「空を飛ぶにしてはやたら身体が大きいなと思っていたけど、そもそもシッカリ空を飛ぶつもりが無かったわけか」
三代さんも腑に落ちた様子で言う。
「そうです。多分きっと元々はプテラノドンのようなバランスだったと思うんですが、より地上とルールに特化した結果、今のドラゴンみたいな外見になったのでは、と」
「長い首は平原で見晴らしをよくするため、空を飛ぶのは外敵に対して身体を大きく見せて威嚇するため、って感じかな」
「ええ。勿論進化のなごりで残っているだけで、行く行くは翼も退化していくかもしれませんが、ドラゴンのような外見になったのにも説明がつくってわけです」
「きゃる!」
ロックも元気に返事をした。三代さんはしゃがんでロックの頭を撫でると、俺の方を見上げて笑った。
「よきかなよきかな。やはり異世界のルールを知るために原生物の生態を調べるアプローチは有効そうだね」
「えっ」
三代さんの意外な言葉に思わず声が漏れる。きょとんとした顔で三代さんはつづけた。
「あれ、説明してなかったっけ?君ら二人の目的は異世界の生物を調査してそこのルールを把握すること。次も調べてほしいルールがあるんだけど、良いよね?」
「えー……」
「ということで次に君たち二人……いや三人に調べてほしいのは、山岳地帯――通称【即死領域】のルールの調査だっ!!」
「きゅう、きゅうっ!」
俺たちの感情とは逆向きに、ロックが元気よく返事をした。




