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73話 どうなってるんだ?

 三日後。


 麗奈はあの露出度の高いネグリジェにすっかり慣れてしまっていた。


 姉さんが毎日着替えとして用意するので、しぶしぶ着ているうちに馴染んでしまったらしい。昨日なんて自分から『もっと明るい色のやつないですか?』とか聞いていた。好んで着ているようにしか見えない。


 俺と並んで朝食を作る麗奈は、薄いピンクのネグリジェにエプロン姿だ。ポニーテールも似合っていて、めちゃくちゃツボにくる。それに何というか……新妻っぽい。


 さすがにパンツは自分のを穿いてるだろうけど……多分。


 テーブルでは、出勤前の母さんが一人、麗奈の作った朝食を食べている。


「美味しい……!」


 今日のメインは卵の生地にトマトやきのこ、ジャガイモ、ほうれん草などが入ったフリッタータという料理だ。他にはトーストやオニオンスープも並んでいる。


 しばらくすると、姉さんと姫奈がだらだらと起きてきた。


「おはよう……」

「おはようございます……」


 二人ともまだ眠そうだ。目を擦りながら、ふにゃふにゃと気の抜けた声で挨拶をしてくる。


 それぞれ顔を洗ったりお茶を飲んだりしているうちに、母さんは満足そうに朝食を食べ終えた。


「ご馳走さま! 今日も美味しかったわ」

「ふふ、そう言ってもらえると作り甲斐があります」


 母さんは席を立ち、ふと壁の時計に目をやる。


「やば、急がないと!」


 麗奈の料理を堪能していて出勤時間ギリギリになったらしく、母さんは慌ただしく身支度を始めた。


「あ、麗奈ちゃん! 昨日黒のストッキングを買って来てくれたのよね?」

「それならこの袋に。はい、どうぞ」

「ありがと!」


 麗奈があらかじめ用意してあった袋を手渡すと、母さんはそれを受け取り、洗面所へと向かった。


 リビングへ戻ってくると、壁際に置いてあったバッグを手に取り、肩に掛ける。


「ヤバい、遅刻する! あれっ、車のキーがない!」

「それならソファの角にあったので、そこのテーブルの上に置いておきましたよ」

「ほんとだ! あっ、そういえば今日ゴミ出しの日なんだけど!」

「さっき出しておきましたよ」

「ありがとう! それじゃ、あとは頼むわね、麗奈ちゃん!」

「はい」


 なぜ麗奈に頼む? 普通俺だろ。


 母さんは何かあれば麗奈が何とかしてくれると思っている節があるんだよな……。まあわかるけど。


 うちに来て六日目。麗奈はすっかり我が家に馴染んでいる。ネグリジェといい、こいつの順応性はどうなってるんだ?


 料理以外の家事もほとんど任せきりだ。洗濯だって、下着があるからと手伝わせてもらえないし。


 リビングを出る直前、母さんが振り返る。


「あ、姫奈ちゃん。私、明日お休みだし、今日の夜は一緒に寝よっか」

「うぇっ!? まじですか……!?」

「うん」

「だ、大丈夫ですかね!? 私、作法とかわからないですけど……!」

「ふふ、大丈夫よ」

「……それじゃ……はい。……よろしくお願いします」


 姫奈は顔を赤くしながら頷いた。


 母さんを見送るため、俺たちも玄関までついていく。


「「「「行ってらっしゃい」」」」

「行ってきまーす!」


 母さんは笑顔で手を振り、出掛けて行った。


「たた、大変です! 歩君っ、どうしましょう!?」

「大丈夫だ。お前なら何とかなる」


 焦った様子でしがみついてくる姫奈を引きずりながら、ダイニングへと戻る。


 俺たちがテーブルにつくと、麗奈がフリッタータをそれぞれの皿に切り分けていく。


「麗奈、私のパンツがないんだけど」


 なんか姉さんが絡み始めた。


「パンツは穿いてるでしょ?」


 姉さんの前に皿を置きながら、麗奈は眉を寄せる。


「穿いてた。じゃあ私のブラは?」

「ブラはいつも着けてないじゃないですか」

「そうだった。映画を観たいんだけど、ストックがないの」

「あとで買い物ついでに借りて来ますよ!」

「ありがとう」


 あんた、ノリで母さんの真似をしてただけだろ。麗奈も律儀に相手をするから姉さんは満足げだ。


「映画は俺が借りて来るよ。買い物も行ってくるし」

「私も一緒に行く!」

「お、おう。そうか」


 全員に配り終えた麗奈は、エプロンを外して俺の隣に腰を下ろした。


 この三日、麗奈を甘やかしていたら、彼女の機嫌はすっかり直った。むしろずっと上機嫌で、そのせいか料理まで完璧だ。


 フリッタータを一口食べる。


「美味い!」


 卵の生地はしっとりしていて、ホクホクしたジャガイモにきのこの食感、そこにトマトの酸味が合わさっている。


 姉さんも「美味しい」と頬を緩めた。


「よかった」


 隣で微笑む麗奈は、依然としてあのネグリジェ姿のままだ。エプロンを外したせいで胸元の谷間ががっつり見えている。このまま部屋着にでもするつもりだろうか。


 朝食を終えると、姉さんはもう一眠りすると言って、さっさと客間へ戻っていった。


 ……正直言って、俺も寝足りない。


 なにしろ、このところ早朝から腕のしびれで目を覚ますし、肌やら下着やらをさらけ出した麗奈が俺に抱きついて眠っているせいで二度寝すらできない。


 食器を片付けた俺は、すぐに二階へ上がり、自室で勉強することにした。


 食後はゆっくりと英単語アプリでもしたいところなのだが、ソファにいると麗奈があの格好でくっついてくる。俺もなんとなく離れづらくて、だらだらと時間を過ごしてしまうのだ。


 机に向かい、数学の問題集を開く。問題を片っ端から解いて、答えをチェックしていく。


 二時間ほど続けると、段々と眠くなってきた。早起きした上、昨日の夜も寝るのが遅かったせいだろう。同じ部屋に四人もいれば、多少は夜更かしもしてしまう。


 俺は問題集を切り上げ、ベッドに倒れ込んだ。


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