66話 お礼した方がいいかな?【麗奈視点】
教壇の前で、数学の答案用紙が返却された。
そこに書かれた点数を見た瞬間、私は振り返って、一番後ろの席に座る歩へ満面の笑みでVサインを向けた。
見事に(ギリギリ)赤点を回避できた。これで夏休みに補習を受けずに済む。
歩はどこかほっとした様子で頷いてくれた。あいつも心配してくれてたんだ。
休み時間になり、すぐに歩の席へ行ってお礼を言うと、自分の席へ戻って夕亜にメッセージを送る。
麗奈:無事赤点回避できたわ(*^o^*)
夕亜からはすぐにメッセージが返ってきた。
夕亜:よかったじゃん! 歩君と葵さんのおかげだね。
麗奈:葵さんはマジで鬼教官だったし……歩は意外と優しかったけど。
夕亜:へえー。歩君に手取り足取り教えてもらったんだ。
麗奈:うん。めっちゃわかりやすかった。
夕亜:私も今度歩君に教えてもらおうかな。
麗奈:あんたは成績がいいから大丈夫じゃない?
夕亜:独占欲じゃん(笑)
麗奈:そんなんじゃないもん。
夕亜:(笑)
麗奈:何かお礼でもした方がいいかな?
夕亜:え…………体で?
麗奈:違う! 普通に! えっちなのなしで!
夕亜:『何でも言うこと聞いてあげるー』っていうのはどう?
麗奈:もっと酷いことになるじゃない! あんた私を妊娠させる気!? 子供の面倒見させるわよ!?
夕亜:麗奈の子供ならいつでも面倒見るよ。
麗奈:え、マジ? ありがとう。頼りになる。
夕亜:だから安心して元気な赤ちゃんを産んでね!
麗奈:うん!
……あれ? 何か話の流れがおかしいような気がする。
麗奈:いや、だからそうじゃないわよ! 勉強を教えてもらったお礼の話をしてるの!
夕亜:そうだった(笑)得意な料理とかでいいじゃん。
麗奈:でも、それだといつもと同じだし、もっと特別なものにした方がいいかなと思って。
夕亜:京介君に歩君の好きなものを聞いてみるのはどう? 参考になるかもよ。
麗奈:なるほど、名案ね! ここまでの無駄話は許してあげるわ。
夕亜:よかった。お詫びに出産祝いのベビー服送るね。
麗奈:いらないっつの!
夕亜:じゃあ子供の面倒見るから、歩君の第二夫人になってもいい?
麗奈:絶対駄目。
私はトーク画面を閉じて、スマホをポケットにしまった。
なんで姫奈といい夕亜といい、あいつの第二夫人になろうとするんだろう。てかそれ二股だから。駄目に決まってるし。
次の休み時間になると、私はすぐに廊下側の席にいる京介君のところへ向かった。
「ねえ京介君、聞きたいことがあるんだけど」
「ん? 何?」
私が話しかけるのが珍しいからか、京介君が不思議そうに見上げてくる。
「歩の好きなものって何?」
「え? 歩の好きなもの? そりゃシスコンだし葵さんだろ」
それは知ってるし、どうしようもない。
「……他には?」
「同列一位がお母さんだな。で、二位が舞岡さんだろ?」
「えっ!? 私、二位にランクインするの!?」
「え? 彼女だし、普通にすると思うけど」
そうか、私はあいつの彼女だから二位なのか。
……なんだか急に顔が熱くなってきた。でも私をあげるわけにはいかないし……
「……次は?」
「三位は俺。四位は……近所の奥さんかな」
「……麻莉さんね」
「あ、うん……知ってるの?」
「一度デート中に会ったわ」
「そうなんだ……」
京介君が何やら気まずそうに視線を泳がせる。
あの人、四位にランクインするのか……まああれだけ仲がよかったら仕方がないけど……少しモヤモヤする。
というか京介君が三位っていうのは本当か? 願望が入ってない?
「次は?」
「五位は、美味しいご飯で……」
やっと参考になりそうなものが出てきたけど、やっぱりご飯か。
「六位はカブトムシかな」
あ、このランキング絶対当たってるわ。前にあいつ、カブトムシが好きとか言ってたし。
「それくらい?」
「あとはまあ……巨乳の女の子とか……」
「……」
そういえばあいつ、巨乳の女子にデレデレしてたことがあったわね……
「……わかった。ありがとう」
私はなんとなく肩を落として、自分の席へと戻った。
ノートの端に、京介君から聞き出したランキングと、お礼にする可能性を書き出してみる。
一位・家族。除外。
二位・私。
三位・京介君。論外。
四位・麻莉さん。論外!
五位・美味しいご飯。一番妥当。
六位・カブトムシ。ギリ可?
七位・巨乳の女の子。
……困った。
私が上位にランクインしている。
しかも、胸も結構あるほうだし、『カブトムシと同じくらい可愛い』ってあいつが前に言ってた。
つまり、私が二位と六位と七位を占めている。
ということは、私自身をお礼として差し出すのが一番喜ばれるってこと……?
……私をあげるってことは……そういうことよね……?
そうすると、毎晩のようにあられもないことになって……そのうち子供とかできちゃうわけで……
結局、夕亜が言ってたのと同じような結論に行きついてしまった。
どうせならこの機会に夫婦になるべき……? あいつだって悪くないとか言ってたし……となると、お礼に渡すのは、婚姻届とか……?
……
……
……いやいや、落ち着け。
勉強を教えてもらったお礼に婚姻届を渡すって、重いとかいうレベルじゃない。頭がおかしすぎる。
やっぱりこの路線は却下!
うーん。他に可能性があるのは、カブトムシ(本物)だけど……森とかに捕りに行くのは無理だなぁ……捕まえられる気がしない。
というか、お礼にカブトムシをあげる私の姿を想像するとシュールすぎる。
……うん。やめよ。
無難に手料理にしよう。
もうすぐ夏休みだし、美味しいものをたくさん作ってあげよう。
夏休み……あいつ、うちに来てくれるわよね? 暑いし面倒くさいとか言って全然来なかったらどうしよう。
そしたら私が会いにいけばいいか。あいつの家も知ってるし。




