59話 とある日の放課後【北原美紅視点】
「なあ三島君。今度、放課後にでも遊びに行かね?」
賑やかに食事が進む中、突然、裕太がそんな提案を口にした。
そんないきなり遊びに誘うか? と思ったけど、そう言えば、こいつは昔からこういう奴だった。人当たりが良く、スクールカーストやグループの垣根を軽く飛び越えて、誰とでも仲良くなれてしまうのだ。
そして、その提案を聞いた舞岡さんと相葉君が、ピクっと反応している。
「いいけど、どこ行くの?」
「どこでもいいけど、ゲーセンとか、カラオケとか、ボウリングとかかな」
「楽しそうだな。京介も一緒に行くか?」
「もち! 行くに決まってるだろ」
「私も行く!」
相葉君の威勢のいい返事に被せるようにして、舞岡さんも声を上げた。
そんな彼女を見て、裕太が目を丸くして驚いている。
無理もない。以前、裕太は他の男子たちに頼まれて何度か舞岡さんを遊びに誘ったことがあるけど、全部断られたらしいし。それが、三島君が行くと言った途端にこれだ。
「私も行こっかなー」
平木さんも楽しそうに乗っかった。さっきから見てたけど、平木さんと舞岡さんは本当に仲が良いみたいだ。
その後、「じゃあ今日はどう?」という裕太の軽いノリにみんなが賛同し、放課後に遊びに行くことに決まってしまった。
「オッケー。ならホームルームが終わったら玄関集合ってことで。美紅も大丈夫だよな?」
「あ、うん」
やっぱり私も入ってたんだ。普段遊ぶのとは全然違うメンバーで、ちょっとドキドキする。
※※※
放課後、私たち6人は玄関前で待ち合わせしていた。
葵さんはパスだそうだ。「ケーキを食べに行く」という声が聞こえたので、誰かと予定でもあるのだろう。
「お待たせー」
最後に平木さんが合流し、私たちはお喋りしながら歩き出した。
校門を出て、駅前へと向かう。
ふと、いつの間にか、舞岡さんと三島君が手を繋いでいることに気付いた。……この2人、ほんと人目も憚らずにいちゃつくよなぁ。
「ちょっと麗奈、みんないるんだよ? 少しは自重したら?」
「「あれっ」」
平木さんに笑顔で突っ込まれ、驚いたように繋がれた手に視線を落とす舞岡さんと三島君。え、無意識だったの? そんなことある?
「んー、まあいいか」
手を離すのかと思えば、舞岡さんはそう言って三島君へ微笑んだ。
三島君の方も、「おう……」と、少し気恥ずかしそうにしながらも、繋いだ手をそのままにしている。
この人たちは甘い空気を出さずにはいられないのだろうか。ただのバカップルじゃん。
しばらく歩くと、私たちは駅前にある大型ゲームセンターへと到着した。
自動ドアが開き、足を踏み入れる。
店内には、ゲームのBGMや電子音が響いており、学生たちの姿が多く見られる。
「あ、私太鼓ゲームやりたい!」
平木さんが嬉しそうに指を差した先には、定番の太鼓ゲームが置いてあった。2台あるから、最大4人で遊べる。
「じゃあ誰か格闘ゲームやんない?」
「あ、俺やる!」
「おっ、相葉君、格闘ゲーム得意なの?」
「まあ結構やってたかな」
裕太の誘いに相葉君が乗り、2人は格闘ゲームのコーナーへと向かった。
残された私たちは、太鼓ゲームの前にやってきた。
私と平木さんが1台の前に立ち、その隣では、三島君と舞岡さんが仲良く並んで、備え付けられたばちを手に取っている。
「あんたこれやったことあるの?」
「全くないな。お前は?」
「私はあるわよ。夕亜が好きだから」
あれ? 三島君って、女の子に対してお前とか言うタイプだっけ? 彼女にはそんな感じなのかな。
「北原さんは?」
画面の選曲ボタンを叩きながら、平木さんが尋ねてくる。
「私は何回かあるけど、めっちゃ下手なんだよね……」
このゲームって反射神経が問われるし。
やがて、音楽が流れ始め、それぞれ太鼓を叩き始める。
結果は85万点対26万点。ぼろ負けだ。
「これめっちゃむずいじゃん……」
隣では、三島君が両手にばちを持ったまま呟いている。彼らの画面を見やると、スコアは83万点対18万点だった。三島君、多分私より下手だ。
「ぷっ、歩君下手すぎ」
平木さんも隣の画面を見て噴き出す。私も大差ないけどね。
「ちょ、もう1回やっていい?」
「いいわよ」
「じゃあ私と麗奈の対戦で、北原さんと歩君の対戦にするのはどう?」
「そうしよう」
舞岡さんに惨敗したのが不満だったのか、即座に平木さんの提案に応じる三島君。
舞岡さんと入れ替わり、私と三島君が並ぶ。
「どの曲にする?」
「あんまり速くないやつにしよう」
それには同意。
私は「これでいい?」と確認して、某有名アイドルの曲を選択した。
ポップな曲が流れ始め、私たちは一層真剣にばちを振るう。
結果、23万点対20万点という物凄く低レベルな争いになった。三島君はガリ勉だからゲームなどは苦手なのかもしれない。
「北原さん、もう1回やろう」
「うん、いいよ」
三島君は意外と嵌ったらしい。結構楽しいからね、このゲーム。
その後、何度か対戦を重ねたが、お互いに大した進歩は見られないまま、どんぐりの背比べが続いた。
「三島君は、得意なゲームはないの?」
何となく尋ねてみた。
「クレーンゲームなら割と得意なんだけどな……」
三島君は少し肩を落としながら答える。
「えっ、そうなの? 結構取れる感じ?」
「まあ、多分」
「マジ? 私、取ってほしいものがあるんだけど! お金は出すから取ってくれない!?」
「いいけど……」
平木さんと舞岡さんはまだ太鼓ゲームに熱中しているので、私と三島君の2人で、近くのクレーンゲームへと移動する。
「これなんだけど」
私が選んだのは、サンリオの限定デザインのぬいぐるみが詰まった筐体である。
「いいよ。どれがいいの?」
「えっと……じゃあこっちのクロミ」
「おっけー」
何だか簡単そうに引き受ける三島君。え、そんな軽い感じで大丈夫?
私は半信半疑で、少しだけ期待しながら、財布から500円玉を取り出して投入した。一応ね。500円だと6回できるし。
筐体の前に立った三島君は、真剣な眼差しでアームを見つめながら、ボタンを押す。
ウィーンと音を立ててアームが移動し、3本の爪がクロミの体を掴み上げる。そのまま一直線に戻ってくると、ゴロンと取り出し口に落とした。
「マジっ!? 一発じゃん!」
驚愕する私を余所に、三島君は「あー、取れて良かった」とほっとしたように呟きながら、ぬいぐるみを取り出す。
「はい」
「わー、ありがと!」
私は大喜びでそれを受け取った。
「どうする? あと5回も残ってるけど」
「そうだった! じゃあ選んでいい!?」
「うん。でも失敗したらごめんね」
「全然! 1個取ってくれただけでも嬉しいし!」
ガリ勉のつまんない人だと思っていてごめんなさい。めっちゃ見直した。
その後は連続で失敗したものの、5回目の挑戦で、もう1つ、シナモロールを取ってくれた。6回中2回の成功だ。
「ごめん、2つしか取れなかった」
「いやいや、全然凄いよ! ほんとにありがと! 三島君最高!」
私はクロミとシナモロールのぬいぐるみを両腕で抱え、興奮を抑えきれないまま感謝を告げる。
「そっか。まあ喜んでくれたなら良かったよ」
三島君がにこっと爽やかな笑顔を向けてくる。
あ、この彼氏、結構いいかも……
いつも落ち着いてるし、彼女に一途だし、クレーンゲームも取ってくれるし、笑顔は爽やかだし……
「へえ……随分楽しそうじゃない」
ゾクッと、背筋に得体の知れない悪寒が走った。
恐る恐る視線を横へ移す。
そこには、感情の消えた冷たい目で微笑んでいる舞岡さんの姿があった。笑顔なのに何か怖いんだけど!?
「あ、いや、これは、どうしても欲しくて……」
「……ふーん」
そんな目で見るのやめて。彼氏を取ったりしないから。ちょっといいかなって思っただけで。
「ちょっと麗奈、目がマジだよ。ただクレーンゲームをやってただけじゃん」
隣にいた平木さんが、苦笑しながら舞岡さんの肩を叩く。
そうそう。全然下心とかなかったんだよ。本当に。
「てかみんなでプリクラ撮らない?」
「あっ、いいね! そうしよ! 裕太たち呼んでくるね!」
私は内心で冷や汗を流しながら、逃げるように格闘ゲームのコーナーへと向かった。




