57話 人気者の舞岡さん【北原美紅視点】
最近、クラスメイトの舞岡さんのことが気になって仕方がない。いつの間にか目で追ってしまうくらいだ。
だって、彼女のやることなすことがはちゃめちゃで面白いから。それに仲良しの彼氏が居て、楽しそうで、幸せそう。
彼女は誰もが認める美人だし、元々それなりには目立つ。だけど、最近は輪をかけて注目の的になっている。
最初は自己主張をしない、大人しい子なのかなぁと思っていたけど、全然違った。
突然みんなの前で告白したり、実は好きな男子に膝枕をしてあげてたり。超モテるくせに壁ドンされて好きになるくらいチョロかったり、付き合った次の日に「妊娠したら困る」とか言って騒いだり。別の男子が言い寄って来ると、彼氏と結婚するつもりだとか言って撃退したり。しかもそのとき、子供3人作るとか宣言してたし。
もはや事件しか起きていない。ここまでぶっ飛んだ人も中々いないだろう。今後、同級生の間で長く話題にされそうだ。
きっと、以前は猫を被ってたんだろうなぁ。一部の女子には疎まれているみたいだったし、彼女なりの防衛策として、当たり障りなく接しておこう、みたいな?
それは気を遣っているようにも見えるけど、「適当にやり過ごせばいいか」と思えるほど、他人に興味がなかったんだと思う。
実際、舞岡さんは、こんな感じの噂をされていた。
『今度はバスケ部の〇〇君が舞岡さんに告白したらしいよ』
『知ってる。他にも〇〇君とか、〇〇君とか──』
『色んな男に愛想振り撒いてるもんね。取っ替え引っ替え遊んでるんじゃない?』
『でも告白は全部断ってるって聞いたけど』
『もしかして他校の男子と付き合ってるとか?』
私はそれらの噂をあまり信じていなかった。というのも、中学のときに同じような噂をされていた人を知っているから。
小学校からの同級生である彼──藤崎裕太は、端正な顔立ちに加えて、昔から人当たりが良く、モテる男の子ではあった。だけど、遊び人だという悪評は事実ではなかった。
当時、クラスの中心にいるような人たちが噂をしていたこともあって、私は特に反論もしなかった。
彼は落ち込んでいたのに、話を聞くことくらいしか出来なかった。
高校に入ってから、私は見た目をギャルっぽく変えた。新しくできた友達が化粧をばっちりし始めたから、半ば付き合いというか、ノリを合わせただけで、深い理由はない。
だけど、いくら髪を明るくしてメイクを派手にしたところで、中身はそう簡単に変わらない。
舞岡さんの悪い噂が耳に入ってきたときも、「大丈夫かな」と心配しつつも、結局は反論することもなく聞き流した。
まあ、私の心配なんて、これっぽっちも必要なかったんだけど。今や舞岡さんはクラス一の人気者だし。
きっかけはもちろん、教室での告白だ。あれは衝撃だったなぁ、マジで。
退屈な日常に突然投下された、特大のエンタメだった。学年中大騒ぎになったもんね。
それに、女子たちも、最強の敵が戦線離脱して安心したみたいだったし。
そして、三島君と付き合ってからというもの、舞岡さんは彼のそばにいるせいか、素がぼろぼろと溢れ出して、がらりと印象が変わった。
何というか、能天気でポンコツっぽくて、何も考えてなさそうな人になった。物凄く良く言えば、天真爛漫って感じ。そのためか、周囲からも「以前より接しやすくなった」と好評だ。
遊び人だなどという噂も、完全に消え去った。だって誰がどう見たって三島君に一途だしね。
私の席が三島君の隣なので、休み時間に2人でいるところもよく見るし、放課後には、舞岡さんが彼のそばで健気に待っていて、仲良さそうに帰っていくのも目にする。一緒に買い物へ行ったり、そのまま彼女の家で過ごしたりしているらしい。
ただ、1つだけ疑問に思うのは、「何で三島君なの?」ってこと。
私から見ると、彼はただのガリ勉男子だ。聞いた話によると、1年の頃から全てのテストで学年トップだったらしい。
それはマジで凄いと思う。私なんかだと絶対無理だし。
だけど、彼は休み時間にも休まず勉強し続けている。たまに舞岡さんや相葉君など、誰かが話し掛けてきたら多少は駄弁る程度だ。その間も、教科書を広げたままだったりする。
そんな人、一緒にいてもつまんないと思うんだけどなぁ。いいの? 舞岡さん。私だったらちょっとくらい文句を言っちゃいそう。「彼女が話しにきてるのに!」って。
私は隣の席にも拘らず、三島君とは軽い挨拶程度しかしたことがない。話してもせいぜい二言、三言くらい。勉強中にあまり親しくもない私が話し掛けても迷惑かもしれないし。
まあ声を掛けると、物凄く爽やかな笑顔を向けてくれるけどね。そういうところは好きかな。
「ねーねー歩ー」
休み時間になると、いつものように、三島君のところへ舞岡さんがやってきた。ほんとに仲良しだなぁ。
普段なら、私は休み時間になると席を離れることが多いけど、何となく今はスマホを弄りながら過ごす。
「昨日鴨のコンフィを作ったの。今日の帰りに食べに来る?」
いや、鴨のコンフィって? 何それ? どんな料理なの?
舞岡さんがよく手料理を理由に三島君を家に誘ってるのは知ってるけど、耳慣れないワード過ぎて、もはやレベルがわからない。
「うん、じゃあ行くよ」
「うん!」
三島君の返事を聞いて、満面の笑みを向ける舞岡さん。彼がご飯を食べに来るだけで、とても嬉しそうだ。もう大好きじゃん。
「あ、帰りに買い物も行くから付き合ってよ」
「わかったよ」
なるほど。今日は買い物へ行ってから、彼女の家でいちゃいちゃするパターンらしい。
用件を済ませた舞岡さんは、満足そうに三島君の席を離れていく。
「麗奈、また料理で釣って三島君を家に誘ったの?」
「本気で彼氏の胃袋を掴もうとしてるでしょー」
「そ、そんなことないもんっ」
自分の席へ戻った途端、待ち構えていた女子グループの面々から笑い混じりに冷やかされ、舞岡さんは顔を真っ赤にして慌てている。
うん、可愛い。そりゃ周りの女子だって、毎日喜んで惚気話を聞きだしては、からかいたくもなるよね。




