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13話 放課後の電話③ 夕亜編

『でもさー、三島君は嘘告白だってわかってたってことだよね? 実際壁ドンなんてしてないわけだし』

「そうね。あいつもわかってたわ」

『だったら結婚とか妊娠とかいう話にならないでしょ。三島君はあんたの立場を気遣ってOKしてくれただけなんじゃないの?』

「全然違うし、残念ながらそういう話になるのよね」


 よくわからないと言う夕亜に、私は説明する。


 あいつは女子の圧力のせいで断ることが出来なかっただけであり、決して私のことを気遣ったわけではないということ。


 あの場で告白が嘘じゃないかと指摘してこなかったのは、私が認めるわけがないとわかっているから。


 そして先程の電話の件だ。つまり「合法的にえっちなことをしてやるからな」という、あの脅しのことだ。マジで怖い。


『あははっ、何それ! やばーっ!』

「笑い事じゃないんですけど! マジで!」


 私が深刻な感じで話してるのに、夕亜は全くもって楽しそうだ。


 相談しておいてなんだけど、予想通りの反応だ。いつも明るくてノリの良い夕亜は、見方を変えると能天気で適当でお気楽なのだ。私もそっちの立場が良かった。


『まさかそんな仕返しがあるとはね』

「ほんと最悪でしょ!?」

『いや、でもあんたが嘘告白なんてしたせいじゃん』

「それはわかってるわよ……」


 仮に、あれが嘘告白だと学校のみんなに白状したらどうなるんだろう。嘘告白は罰ゲームなどでよくあるやつだ。あれってめちゃくちゃイメージが悪いわよね? もしかして学年全部の女子から嫌われる可能性もあるんじゃないの? 嫌過ぎる!


 やっぱり嘘告白だと白状するわけにはいかないから、あいつのことを好きな設定は変えられない。


「とにかくどうしたらいい!? 助けて!」

『助けてって言われても……』

「このままじゃ私、あいつに良い雰囲気にされてその気になったところをやられるわ! そして高校生の分際で妊娠して結婚することに……うぅぅ……ぐす……」

『警戒してるくせにその気になる可能性があるんだ……』


 心底呆れたような声だ。「このアホの子をどうしよう……」という声が聞こえるような気がする。


 どうやら彼女はまだ事の重大さをわかっていないらしい。私が本気で泣いているのに。


「ぐす……あんたは私が散々陵辱されてその相手と結婚することになってもいいの……?」

『そうじゃないけど、三島君との電話ってちょっとした喧嘩みたいなものでしょ? 三島君も勢いで言っちゃっただけだと思うけど』

「いや、そんなレベルじゃなかったと思うけど!? あいつ絶対本気だったわよ!」

『大丈夫だって。三島君って結構親切な感じの人じゃん。私あの人が先生の手伝いをしたり勉強を教えてるのを見たことあるし』

「それはあいつが猫を被ってるだけだって言ったでしょ! 実際は私を騙して変なセリフを言わせて、毎日膝枕させるような頭がおかしい奴なのよ!」

『あんたが毎日寝るのを邪魔しに行くからでしょ? わがままに付き合ってくれてるし優しいじゃん』

「何でそう楽観的なの!? 私の心の叫びが聞こえないの!? あいつはそんな奴じゃないんだってば!」

『そう?  でも色んな人に親切にしてるからか、あの人割とみんなからの好感度が高いよ』

「はぁ!? 嘘でしょ!?」

『ううん、マジで』


 衝撃の事実だ。あんな頭がおかしい奴が好感度が高い? マジ? 確かに猫を被ってるから外面は良くて、笑顔は爽やかで可愛いけれど。私なんか、猫を被っても嫌われてるのに……その人たちは騙されてる。


「とにかくどうしたらいいの? あいつにやられる前に鈍器とかで殴った方がいいかな?」

『駄目だよ。死ぬじゃん。てか三島君もちょっと怒っちゃっただけで、本気じゃないって』

「本気だったらどうすんのよ!」

『うーん…………でも人前でされるのって最悪キスくらいでしょ? 別に死ぬわけじゃないしいいじゃん。あはは』

「他人事過ぎる!」


 駄目だこいつは。全然まともに考えてくれる気がない。しかも絶対ちょっと面白がってるし。


 いや待て待て。落ち着くのよ。


 よく考えると、両想いの恋人を演じるというのは、人前でこそ意味がある。


 いくらあいつでも人前でそこまでのことはしてこないはずだ。夕亜の言う通り、最悪キスくらいだろう。


 キスだけならまだマシだ。仕方ないで済ませてあげられる。妊娠もしないし。


 つまり身が危険なのは2人きりのときだけだから……


 ん? 待てよ……2人きりのとき……?


「私昼休みにはあいつと2人きりで過ごしてるんだった! しかも人気のないところで!」


 混乱して頭から抜けていたが、私は毎日あいつと2人きりで過ごしている時間がある。しかも教室棟から距離があり、全く人の来ないあの場所は、やましいことをするのにとても都合の良い場所だ。


 間違いない。あの場所でやられる!


『何かどっかの屋上のとこで過ごしてるんだっけ?』

「そうなのよ……私毎日あいつに膝枕とかしちゃってるのよ? ちょっと間違えば一気に行かれるわ……」

『じゃあその場所に行かなきゃいいんじゃないの?』

「確かにそうだ!」


 あいつと2人きりになるのはあの場所だけだ。私がそこへ行かなければ、学校生活内で2人きりになるタイミングなど皆無と言える。


 せっかく昼休みに楽に過ごす居場所だったのに、一気に危険地帯と化してしまった。仕方がない。別の場所でも探そう。全くもう……膝枕をするだけならもう慣れたから全然良かったのに……


『まぁ正直なところ、そんなに気にしなくても大丈夫だと思うよ。学校でそこまでしないだろうし』

「…………そうよね」


 夕亜の言う通りだ。普通学校ではそんなことはしない。他人に見られるリスクがあるからだ。


 加えてあいつは猫を被る程度には人目を気にする奴だ。誰かに見つかったら取り返しのつかないようなことを学校でするだろうか。いや、しないはず。


 それによく考えると、2人きりのときなら彼を拒んでも問題ない。誰もいないときには恋人のフリなんかしなくていいんだから。


 私がその気になっちゃうのは気を付けるとして。


 ……何とかなるか?


『てかさー、私に送ろうとしてた写真ってどんなの? この際だから送ってよ』

「うん、まあいいけど」


 私はスマホのメッセージアプリを開き、三島君のヨダレ寝顔写真を夕亜へ送った。今度は間違えないようにっと。


『あははっ。何これウケる』

「でしょ? ヨダレ垂れてるし」


 これこれ。夕亜とこういう話をしたかったのよ。それがミスってグループチャットに載せたせいでとんでもないことに……


『いいじゃん。可愛いじゃん』

「いや可愛くはないでしょ。しかも何度もスカートにヨダレをつけられてるし』

『あはは、子供みたいだね』


 私にとってはそれも笑い事じゃない。昼休みの2回に1回はヨダレをつけられるので、その度にスカートを洗濯するはめになっている。


『あ、そろそろ切るね。今からバイトだから』

「わかった。じゃあまたね」

『はーい』


 まだ話し足りないけど、バイトなら仕方がない。


 私はスマホの通話終了ボタンを押した。


 結局何の対処法もなかったけど、学校で会う分には多分大丈夫かな……


 でもあいつ頭おかしいからなぁ。予想外のことをしてきそうで不安だ。


 昼休みはあの場所へ行かないとして、その他のどこかで万が一2人きりになったとしても、襲われたら全力で拒む! ちょっと不安は残るけどそれで大丈夫だよね……?


 でも強引に空き教室とかに連れ込まれたらどうしよう。


 土下座して何とかキスだけにしてもらえるよう頼んだら聞いてくれないかな……


 やっぱりそれ以上いっちゃう?


 というか私のファーストキス、そんなんでいいのか? 普通はもっとこう、いい雰囲気の中でするものじゃないの……? ぴえん……




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