12話 放課後の電話② 夕亜編
私は焦りながら通話履歴を遡り、唯一本音で話せる友達の名前をタップした。
平木夕亜。いつも友人たちに囲まれているリア充女子だ。だけど一番の親友は私! ……のはずなので、友達と街に繰り出してそうなこの時間でも、きっと電話に出てくれる。
呼び出し音が3回。
『はーい、もしもーし』
「あ、夕亜! 私だけど────」
『おー、これはこれは、学校一の有名人じゃないですか』
「へ? 何のこと?」
私がぽかんとしていると、電話の向こうで夕亜がふふっと楽しそうに笑う。
『何かあんたのこと、みんな大ニュースだって噂しまくってるよ』
「はあ? 何で!?」
『いや、あんたが教室で盛大に告白したからじゃん。しかも彼氏が出来たんだよ? もう2年の全クラスに広まってると思うよ』
「っ!? マジで!?」
『うん。私のクラスでもめちゃくちゃ話題になってたもん。女子は喜んでて、男子は泣いてる人もいたけど。その話で超盛り上がったよ』
「随分楽しそうね! 人の話で!」
全く、他人事だと思って! こっちはそれどころじゃないのに!
『で? 念願の三島君とカップル成立して、今は放課後デート中だったりとか?』
「そんな場合じゃないの! こっちは死活問題なの! ヤバいの!」
私は地団太を踏みながら、スマホに向かって叫ぶ。
『確かに面白すぎてヤバいよね』
「そうじゃないわよ!」
この親友には、全然私の必死さが伝わっていない。
『じゃあ何なの、一体?』
能天気に尋ねてくる親友に、私は泣きそうになりながら告げる。
「実は……」
『うん』
「彼に妊娠させられそうで……来月あたり結婚するかも……」
『……ぶっ……!? げほっ、ごほっ……!』
しばらく咳き込んだ後、絞り出すような声が返ってきた。
『……ちょ、ちょっと待って……あんた、さっき告白して付き合い始めたばっかりだよね? なんでそこまで話が進んでるの!?』
「やっと私の緊急事態を理解したようね」
『……え……もしかして、さっきの今で、もうしちゃったの……? しかも中で……?』
「まだ何もしていないわ」
『そ、そっか……』
夕亜がほっと安堵の息を漏らす。
「でも時間の問題なの……」
『え? いや、まあそうなんだろうけど……』
「そうじゃなくて! とある事情で明日にでもアレな展開になっちゃうのよ!」
『そ、そうなんだ……でも好きならいいんじゃない?』
「駄目なの! そうじゃないの!」
『とにかく落ち着いて。一から順を追って話して』
「うん……」
落ち着くのよ私……ちゃんと事情を説明しないと……うぅ、泣きそう……
「あの、誰にも言わないでほしいんだけど……」
『うん。何?』
「……今日の告白、嘘なの」
『………えっ………?』
電話の向こうで夕亜が絶句する。
『……どういうこと?』
「だから、嘘だったの……」
『全然わけがわからないよ』
そりゃそうだ。私もなんでああなったのかよくわかってない。
とにかく、あれが嘘だったからこそ、私は今大変な事態に陥っている。
例えば私が本当に三島君のことを好きで、本気で告白をしたのだとしたら、みんなの前での告白だったとしても、あいつがあそこまで怒ることはなかったと思う。何なら、女子たちをがっかりさせてでも真摯に交際を断ったかもしれない。……と思う。多分。
嘘告白だからこそ、無駄に巻き込まれたあいつは怒ったのだ。あとは壁ドンされたとか言っちゃったのもあるけど。
「あのときは仕方がなかったのよ……」
私は教室で起こった一部始終を夕亜に話した。
『えぇっ!? 三島君の寝顔写真を誤爆して、それを誤魔化すために好きだってことにした!?』
「うん。そしたら何か、告白したみたいになっちゃって……何だかんだと流れで恋人になっちゃったわけなのよ」
『えぇ……』
言葉を失う夕亜。
……が、数秒の沈黙の後、「ぷっ」と吹き出した。
『あははっ、何それ!』
「面白がってる場合じゃないんだけど……」
『だって、普通そんなことで告白する人なんていないでしょ!』
「でしょうねえ! 私だって聞いたことないわよ!」
でもあのときはあれしか思いつかなかったんだもん。
『……じゃあ、壁ドンされて好きになったっていうのは?』
「そんなわけないでしょ? 好きになったきっかけを聞かれて咄嗟に答えたの。壁ドンなんてされたことないわよ」
『あはは、マジ? それを言ったときの三島君の反応が気になるんだけど?』
「机に頭をぶつけてたわよ。その後超怖い顔で睨まれたわ」
『あはははっ、やばいマジウケる!』
「……いや、ウケないから」
聞いてるだけなら面白い話なんだろうなぁ。私は困ったことになってるってのに。
『まあ確かに、結構三島君の文句とか言ってたのに、いきなり惚れるなんておかしいもんね。しかもあんた、最近まで男に全然興味無かったし』
「でしょ? それにみんなの前で告白とか普通に意味わかんないじゃん」
『それはまあ、あんたならあるのかなって思ったけど』
「何でよ!?」
『いや、だってあんたってわけわかんないし』
「マジですか」
どうやら私は親友にわけのわからない女だと思われていたらしい。嘘でしょ……?




