87話 静観
透に魔法を教えてから一週間が経った。いよいよ明日から競技会の校内選抜が始まる。今年は出場者としてではなく観客として楽しむことにした。もう去年の時点から参加するつもりはなかったので後悔は一切ない。むしろ、運営がどれだけ視聴率を稼ぐのに奔走するのか楽しみにしている。とりあえず今はみんなの校内選抜を楽しむことにした。
校内選抜は全学年ごちゃ混ぜだから選抜戦よりスピーディーに行わなくてはならず、一度に行う対戦数も増やさなくてはならない。したがって、ユースたちの対戦を見た後は暇な時間がかなり長い。去年はその間ずーっと対戦を見ているだけだったが、今年は俺が校内選抜にエントリーしていないためみんなのウォーミングアップなどに付き合ってあげられるからそんなに暇ではないかなと思った。もし暇だとしてもユースたちと一緒にいるだろうからそんなに退屈だとは感じないだろう。
校内選抜本番となった。今日は一回戦目ということでみんなゆるーい感じだった。トーナメント表も事前に発表されていて強い人に当たっていないか確認していたのだろう。今日はみんなの対戦を見ることしかやることがないなと思い残念に思っているとユースが話しかけてきた。
「健斗ってさこれから結構な間暇だよね」
「そうだけど、どうしたんだ?」
ユースの突然な申し出に何を考えているのか不審に思った。
「これから校内選抜で対戦が無い時、暇な時間結構あるからその間私たちに色々教えて欲しいなって」
「いいけどユースから言い出すなんて思ってなかったな」
「そう? 私だって強くなりたいし、健斗に魔法教えて貰えるなら喜んで教えて貰うけど」
ユースもそんなふうに思っていたとは知らず少し驚いた。でも、それなら俺の暇も潰せるしみんなも強くなれるだろうからwin-winだと思った。
「それじゃあみんなの対戦が無い時間帯を教えてくれたら魔法教えるよ。昼休憩の間に教えるのも全然問題ないし」
そこからみんなどの時間帯に対戦があるのか確認し合った。ユースは最初の方で勝と春奈は真ん中、透は最後の方と見事にバラバラだ。でも、互いに対戦の間隔はかなり広いことから教えるのはいつでもいいという結論になった。
「それじゃあ昼休憩から続けて教えるのでもいいか?」
「いいけど、私は途中で抜けるかも。透は最後の方だから大丈夫だろうけど」
「ちゃんと春奈が抜けてた時のことも後で教えるから心配しなくても大丈夫」
「ありがとう」
というわけで今日の流れが決まった。これから校内選抜が始まるため俺たちは実戦場に向かった。勝たちの対戦はまだ先だが、ライバルになるであろう生徒たちの情報をみすみす見逃すわけもなく、観客席から他の生徒の対戦を静観していた。俺はやることがないからぼーっと見ていてると春奈が言った。
「健ちゃんさ、やること無いなら対戦してる生徒がどんなアイテム使ってるか見ててくれない?」
「いやいや、それはないだろ。さすがにめんどくさすぎるって。それに、ライバルを観察して技術を盗むするのも重要なスキルだろ」
「確かに……それじゃあ私たちはそのスキルを習得できるように努めるから健ちゃんはコーチみたいに教えてよ」
「まぁそれなら」
というわけでやることが出来た。何分暇なのでちょうど良い暇つぶしになると思いやってみた。しばらく春奈たちと対戦している人がどんなアイテムを使っているのか、魔法はどのレベルなのか、近接戦闘は誰レベルかを話し合いながら観察眼を磨く訓練のようなことをした。そんなことをしているとユースの対戦の番になった。実戦場はユースの番と分かるとザワザワし始めた。この前の選抜戦でも見ただろと言いたかったが、見ていない生徒もいるかも知れないし好きな映画を何回も見るのと同じことだろうと黙ってユースの戦いを見守ることにした。そんな時、後ろから声をかけられた。
「あのすみません。小出先輩ですか?」
「えっはい、そうですけど」
話しかけてきたのは小柄な女の子だった。身長からして一年生かなと思っていると聞き飽きた質問を投げかけられた。
「小出先輩は何で校内選抜にエントリーしなかったんですか?」
俺は内心もう答えたくないよと思ったが、一年生だから知らないのにそんな対応をするのは先輩としてよくないと思い丁寧に答えた。
「俺は去年競技会で色んな経験を出来たしアイテムも貰ったから他の人にそのチャンスをあげようって思ったからだね」
「そ、そうだったんですね。私去年先輩の活躍見て光正に来たんです。握手してもらえませんか?」
「俺なんかで良かったら」
俺は右手を差し出すとその女の子は嬉しそうに握手をした。
「ありがとうございます。えっと、えっと、攻略者になるための訓練頑張ってください!」
「ありがとう。君も、来年からダンジョン攻略授業ってのが始まるから今のうちに頑張りなよ」
「はい! ありがとうございました」
その女の子は小走りで去って行った。新入生って感じがして可愛かったなと思っているといつの間にかユースの対戦が終わっていた。そんなに話し込んだつもりなかったのに早いなと思っているとユースが戻ってきた。
「どうだった?」
ユースが俺に問うてきた。話をしていて正直に見ていなかったと言うべきだと思ったが、ユースを怒らせてしまわないか心配になった。でも、ユースはそんなことで起こるような人じゃないと信じて真実を伝えた。
「ごめん。話してて見てなかった……」
「もー、良かったところと悪かったところ聞きたかったのに。今度からはちゃんと見ててよ」
「分かった。善処する」
そこからまたしばらくの間春奈たちと観察眼を磨く訓練のようなことをしていると勝の番になった。勝が実戦場に降りると、一年生を除く二、三年生がザワザワし始めた。何だと思っていたが、勝が星座級の凍界無別をゲットした噂が広まったからザワザワしてるんだろうなと思った。案の定近くから聞こえてくるのはアイテムがどんな力なのか気になるというような内容だった。ライバルのことを知るのは大切だし仕方ないかと思っていると勝の対戦が始まった。でも、勝は見ていた人たちの期待を裏切るように不撓の拳しか使わなかった。というより凍界無別を持ってきてすらいなかった。見ている人たちは明らかに残念そうにしていて少し面白く思えた。勝は一回戦勝利を飾り戻ってくると俺は聞かずにはいられなかった。
「凍界無別持って来なかったのか?」
「持って来てたけど、アレ使ったらヤバそうじゃない?」
「確かにな」
言われてみればその通りだ。俺だって生徒相手に万物潰崩は使わないし豪嶽砕も使わないから言われてみれば当たり前のことだった。何でこんなこと聞いたんだろうと思うぐらい当たり前のことすぎて少し恥ずかしくも思えた。しばらくすると昼休憩に入った。俺たちは食堂に昼ご飯を食べに行き訓練を始めることにした。
次回もお楽しみに




