80話 逆さのダンジョン
逆さのダンジョンに向かうバスが出発した。さすがにここまで来て校内選抜のことを気にしている生徒はおらずみんな攻略授業に集中していた。かく言う俺はバス移動の最中に無駄なエネルギーを使わないように疲労を溜めないように寝ることにした。みんなはそんなに話し込んだりはせず静かにしていた。スマホで調べ物をしたりゲームをしたり、俺みたいに寝ている人が多かったのだろう。そのおかげでバスに乗ってからすぐに眠りにつくことができた。
「健ちゃん起きて」
隣に座っていた透に起こされた。外を見てみると、田んぼや畑がちらほらある郊外にいた。バスの前には市民ホールのような中規模の建物があり、この建物の地下に逆さのダンジョンがあるのだろうと判断した。寝ていたおかげであっという間に逆さのダンジョンに着き疲労も一切なく完璧なコンディションだった。孤高の先達者の効果を試してみたいなと思ったが、そんな状況に自ら陥るのはさすがに馬鹿すぎるためやらないようにした。でも、普通に一人の状況でも発動するのか確認したいから少しだけ一人になる時間を作ろうと思った。
「それじゃあ前回と同じように休憩施設に荷物を置いたらそこからは各々グループで自由に攻略をするように。スビティスシィを各グループに一つ配布するから必要な時に吹くように。入り組んだ場所もあるから安易にズカズカ進んだりせず、ゆっくり慎重に進むように。順についてくるように」
鷲田先生について建物の中に入ると、地下に進む重厚な扉が設置してありここが入り口だと理解した。その扉が開かれ中に入ると今までの現代的な感じから一変した。連鎖のダンジョンと同じように岩肌が現れここから先はダンジョンだと肌から感じた。久しぶりの感覚に少し感覚が過敏になった。鷲田先生について行き休憩施設に着くと俺たちは荷物を置きグループに分かれた。今回はクラスのみんなは俺たちと同じグループになることを迫って来ず、俺たちはいつも通りのメンバーで攻略することにした。ユースがスビティスシィを鷲田先生から受け取り攻略が始まった。
逆さのダンジョンは思っていたよりも他のダンジョンとここが明確に違うなと思うことはそれほどなかった。歩いているだけでは普通のダンジョンと違いなく上を見れば平面な地形が広がっていてここが逆さのダンジョンの名前の由来なんだなと思うぐらいだった。休憩施設からしばらく進みもうそろそろモンスターが出てくるのではないかと思っていたが、一向にモンスターが出てこず不審に思っているとユースが言った。
「健斗、暗いから火魔法で明るくしてくれない?」
「分かった」
ユースの指示通り火魔法を俺たちの上に出現させ辺りを明るくしたその瞬間、天井を覆い尽くすほど多くの大型な蜘蛛がいることに気がついた。
「キャー!」
「うわー……」
天井一面にいる大型の蜘蛛にみんな嫌だという反応をしていた。ユースも眉間に皺を寄せており嫌なのだと思った。
「アラネアじゃん……」
「アラネアってどんな能力持ってるの?」
俺がユースに問うと説明してくれた。
「アラネアが出来ることは普通の蜘蛛とほとんど同じだけど、蜘蛛の糸の強度は玄人のアイテムでも切れないことがあるぐらい硬いってことと、その数の多さで自分たちより大きなモンスターも倒すってぐらい。でも、そこまで一匹の強さはないからその火魔法で全部燃やしちゃって」
「分かった」
「「「ギィ゛ィ゛ィ゛」」」
俺は光源として使っていた火魔法で天井にいるアラネアを焼き尽くした。アラネアが焼かれる際に発する声は耳に残る嫌な感じで顔を顰めた。アラネアを一掃したためそのまま進んでいると広い空間に出た。事前に塩田先生が言っていたように地面が窪んでいるのに気がついた。やっぱり普通のダンジョンとは違うなと思いそのまま進んでいると天井に蜘蛛の巣を発見した。天井一面に蜘蛛の巣が張り巡らされておりどれだけの数のアラネアがいるのかとゾッとした。
「さすがにこれは無視しようか」
ユースの指示に従いそのまま何もせず進もうとしたその時、アラネアの一匹が声を上げた。
「ギィ゛ィ゛ィ゛」
その空間に響く声に俺たちは天井を見上げると、蜘蛛の巣の中心から普通のアラネアより一回りも二回りも大きな個体が姿を現した。
「そりゃこれだけ大きかったらアラネアレックもいるよね。健斗、燃やして」
「アラネアレックって?」
「アラネア版女王アリみたいな感じ。とりあえず燃やして」
「はいよ」
俺は天井一面に広がる蜘蛛の巣を高火力の火魔法で焼き尽くした。でも、そのままにしているとアラネアの燃えた死骸が降ってくるためプライシディウムを展開して防いだ。
「流石健斗」
ユース含めみんなから感謝された。しばらく燃やし続けるとアラネアレックも力尽きたのか落ちてきた。ユースが雷王の剣で頭を突き刺しトドメを刺した。アラネアレックは二、三メートルほどの大きさで普通の蜘蛛をそのまま大きくした感じで気持ち悪かった。燃やしたことでそこまで綺麗に見えなかったのが救いだ。
「これどうやって運ぼうか」
春奈がそう言うとユースが言った。
「そのまま放置でいいでしょ。他の人が運んでくれるかも知れないし」
俺もユースの意見に頷いていると春奈が反論した。
「成績に含まれるんだから勿体無いよ!」
モンスター討伐が成績に含まれるのは初耳だった。それなら運んだ方がいいなと思ったが、どうやって運ぼうかなと思っているとユースが反論した。
「私たちより、成績危うい人たちが協力して倒したことにすればその人の加点になるんだから放っておいていいの。それとも私たちはそんなに成績を気にしなくちゃいけないほど落ちぶれてるの?」
「それならいいけど……」
ユースの言い分に反論出来なくなった春奈は少ししょぼんとしていた。春奈としては善意のつもりで言ったのだろうが、ユースとしては知っていた上での判断であり無駄な話という感じだった。少し雰囲気が悪くなりどうにかしてこの雰囲気を変えられないかなと考えを巡らせたが、特にいい案は思いつかずそのままにするしかなった。少し進み広い空間を抜けると三叉路のように目の前の道が二つに分かれていた。
「どっちに進む?」
ユースが俺たちに問うと俺と勝は左の道を選び、透と春奈は右の道を選んだ。意見が分かれてしまったが、どうするのかと思っているとユースが天の神様の言う通りを行った。まさかの決め方に驚いていると左の道に決まった。
「よしこっちね」
ユースはそのまま何も考えることなく進んだ。俺たちはこれでいいのかと思ったが、進んでしまったユースについて行くしかなかった。そのまましばらく進んでいたが、モンスターが一匹もおらず不審に思っているとまた広い空間に出た。今度はどんなモンスターなのかと思っていると、その空間の天井に一メートルほどのとても大きなヤモリのようなモンスターが十匹ほどいた。
「マグヌスゲッコーねアイツなら大丈夫。アイツはこっちから手を出さない限り攻撃してこない穏やかな性格なの。進むわよ」
俺たちはマグヌスゲッコーの下を通り抜けた。マグヌスゲッコーは俺たちのこと見ていたが、攻撃してこず本当に穏やかな性格なんだと安心した。これまで出てきたモンスターの二種類は、どちらも天井に張り付いていたり重力を無視しているモンスターであり逆さのダンジョンの名前通りだなと思った。でも、ダンジョンの名前通りのモンスターしかいないわけないと普通のモンスターも出てくるだろうと警戒は怠らなかった。
次回もお楽しみに




