79話 攻略授業二回目
鬱蒼のダンジョンに攻略授業に行ってから早くも三ヶ月が経った。もうそろそろ競技会の時期ということでみんな競技会に向けて意識し始めている頃、塩田先生がホームルームで衝撃的な発表をした。
「えーみんなもう一ヶ月もしたら競技会が始まってるのは分かってると思うが、来週から前回中断せざるを得なかった攻略授業の二回目が決まりました。ダンジョンの名前は逆さのダンジョン。その名前の通りダンジョンの構造が百八十度回転してるんだ。と言っても、逆さのダンジョンは光正の管理下できちんと整備されてるから攻略が面倒になったりはしない。それに鬱蒼のダンジョンみたいに変わったダンジョンじゃなく、岩肌の洞窟タイプのダンジョンだからそんなに違和感はないと思う。強いて言うなら広い空間の天井が平坦で地面が窪んでるぐらいだな。日程は前回と同じで一週間、出発日時も同じだ。忘れないように遅れないように来ること。きちんと競技会の校内選抜には間に合うようにスケジュール組んでるからそこら辺は心配しなくても大丈夫だぞ。それじゃあ用意しておくように」
そう言うと塩田先生が教室を後にしようとした時、ユースが質問をして止めた。
「先生、攻略授業を休み競技会に向けて自主練習をやると言った場合成績はどうなりますか?」
「攻略授業は他の授業と互換性がないから補填も出来ないしテストの成績にも響く部分があるだろうから手放しに肯定も否定も出来ないな。テストで全部挽回出来るって自信があるならいいけど、先生としてはクラスのみんなと一緒に攻略授業で共に成長して欲しいなって思うな」
「分かりました。でも、攻略授業を延長したりはしないでくださいね」
「それはもちろんだとも。他にも質問のある奴はいるか?」
全員手を挙げないことを確認した塩田先生は教室を後にした。そこからクラスは騒然とした。校内選抜に影響が出ないか心配する者や何でこの時期なんだよと不満をあらわにする者もいた。俺はもう競技会に出るつもりはなかったので特に焦らないでいるとユースが話しかけてきた。
「健斗ほどになると攻略授業如きじゃ焦りもしないって感じね」
「ん? あぁ、まあな」
一瞬ユースがどういうつもりで言ってきたのか理解出来なかったが、別に焦っているわけではないので適当に返事をした。すると、春奈も話しかけてきた。
「健ちゃんは心配じゃないの? 攻略授業やったすぐ後に校内選抜やるの」
「別に。そもそも俺エントリーしないから焦るも心配するもないから」
「「「えー!?」」」
俺の言葉にユースたちと近くにいたクラスメイトが驚きから大きな声で叫んだ。少し離れた場所にいたクラスのみんなが何があったのかと俺たちの方を見てきたが、みんな口を塞いだ。みんなの興味が薄れるとユースが不思議そうにしながら問うてきた。
「何でエントリーしないの? 競技会出なくていいの?」
「まぁ去年勝っちゃったから他の高校の人たちにもチャンスあげたいなって。俺たちだけで独占するのは良くないだろ? それに、俺以外の光正の誰かが競技会に出場出来て、名を上げるチャンスなんだから去年もう名を上げた俺が今年も出るのは烏滸がましいかなって」
俺がそう言うと透が言った。
「でもいいの? 貰えるアイテムの数を自分から減らすようなことして」
「別にいいよ。俺もう強いし」
俺は自分にかなりの自信があり、じいちゃんや武帝たちもいる。ここまで恵まれた俺が更に貪欲にアイテムを得ようとするのはさすがに大人気ないと言うか傲慢過ぎる気がして自分としてもいい気分じゃない。それならもっと可能性のある人たちにアイテムが渡り将来の攻略者に期待する方がいいと感じたのだ。
「強いのは確かにそうだけど、見に来てくれる観客は健斗を求めてるかも知れないよ? 去年だって凄かったじゃん」
ユースは必死に俺を引き止めようとしているように言った。それなら余計俺以外の人にも注目が集まるのではないかと思った。でも、ユースがこんな言葉を求めていないのは分かっていたので考えて発言した。
「見に来てくれる人には申し訳ないけど、俺たちがアイテムを独占するのはさすがに気が引けるし、俺たち以外の人たちにも強くなって欲しいからさ」
俺がそう言うとみんなは何とも言えない表情になった。納得せざるを得ないと言うか、俺の考えを変えることが叶わなかったことに対する後悔なのか、みんなの表情はいいものとは断じて言えなかった。それでも、春奈は口を開いた。
「健ちゃんがそこまで言うのならもう何を言っても変えられないんだろうけど、もし気が変わったらエントリーしてね。私たち健ちゃんが今年も競技会に出てくれるの楽しみにしてるから」
「ありがとう」
その一言だけを言い続きは言わなかった。その続き次第ではみんなの応援を裏切ることになるからだ。みんなが俺のことを求めてくれているのは本当にありがたいが、競技会で有名になり過ぎてヴェナトレスなんかに目をつけられたらたまったものではない。正直言って俺が競技会に出場してアイテムを得るよりヴェナトレスに目をつけられる方が面倒だしリスクリターンが合っていない。それなら最初から出場せずヴェナトレスに目をつけられないようにする方が賢いと考えたのだ。そんなことをしていると授業が始まった。今日の午前は座学の授業だったが、みんな校内選抜のことと攻略授業のことで頭がいっぱいなのか心ここに在らずみたいな感じだった。
昼休みになると食堂に行きみんなで逆さのダンジョンについて調べたり話し合ったりしていたが、そこからどんどん校内選抜の話に流れていき俺に本当にエントリーしないのかと再三聞いてきた。俺はその度にエントリーしない旨を伝えた。みんなその度に残念そうにしていたが、俺の意思は揺らがなかった。そこからの一週間事あるごとにエントリーしないのかと言われ続けたが、俺の意思は変わらないとその度に言った。みんなどれだけ俺にエントリーして欲しいんだと面倒に感じたが、それだけ俺は期待されているのだと思うと少し嬉しいような複雑な感情が芽生えた。
一週間が経ち今日は逆さのダンジョンに出発する日となった。父さんと母さんは俺なら心配ないと笑顔で送り出してくれた。俺には自分が思っている以上の期待と信頼が寄せられているのだなと感じた。いつも通り登校し学校に着くと俺たちがダンジョンに向かうバスが校門に停まっていた。前回と同様に鷲田先生の説明と同行してくれる先生たちが紹介された。俺たちはバスに乗り込み二回目の攻略授業が始まろうとしていた。
次回もお楽しみに




