72話 討伐要請
ダンジョン攻略授業が中断されてはや一ヶ月が経った。光正は攻略授業より対人授業に力を入れるようにしたようで、実戦授業のほとんどが対人授業になっている。俺たちの攻略授業でヴェナトレスと思しき奴がいたのだから攻略授業を控えめにするのは当たり前だろう。学校側としては生徒を守るのが最も重要な事であり、わざわざ危険なダンジョンに行くことはない。だが、生徒としては時々新しい出来事や非現実的な出来事を求める節がある。生徒と言わず人間全員に言える事だろうが、学生はその思いが強いだろう。現に俺のクラスでもみんな休み時間になれば退屈そうにしているし、口々から暇だと聞こえてくる。先生たちと生徒たちで悩みの種が真逆でありこれをどうやって解決するのかと思っていると、教室にいた全員のスマホに緊急速報が飛び込んできた。
—赤石山脈で天災級モンスターワイバーンの出現を確認。現場に向かえる攻略者及び攻略校に通う生徒は直ちに現場に急行せよ—
クラスの雰囲気は一変した。この非日常的な出来事に加わる事が出来るのだから誰であってもドキドキするだろう。だが、一部の生徒はワイバーンという単語に怯えていた。それも無理はないだろう。なんて言ったって天災級という未知の領域のモンスターが現れたのだから。しかも、めっちゃ離れた場所ではなく案外近い場所なら尚更だ。そんな混沌とした状況をおさめるために鷲田先生が放送を行った。
「只今緊急速報が発令されました。赤石山脈で天災級のワイバーンが現れたとのことです。詳細な情報が分からない以上、生徒たち全員を現場に送る事は出来ません。したがって、今から名前を呼ぶ生徒のみ現場に向かってもらう事にします。他の生徒はワイバーンが暴れた影響で街までモンスターが逃げてくる可能性があるのでそちらの対処にまわってもらいます。ワイバーン討伐に向かう生徒は八幡くん、真島さん、曽根くん、小出くん、ユースさんの五名です。名前を呼ばれた五名は直ちに職員室に来てください」
俺とユースは必要な物を持ち職員室に向かった。クラスのみんなは俺たちに対して死ぬなよや頑張れといった励ましの言葉を送ってくれた。勝たちはただじっと俺たちの目を見ており、その目から色んな言葉が読み取れた。俺とユースは勝たちに大丈夫だと目で訴えかけた。職員室に向かう途中、他学年の先生たちともすれ違ったが、皆焦っており緊急事態なのだと理解した。職員室に着くと、俺たち以外の三人も同じタイミングで職員室に来ていた。鷲田先生が職員室から出て来て俺たちに説明を始めた。
「一刻を争う事態だから簡潔に説明する。ワイバーンを空を飛ぶモンスターで主に遠距離からしか攻撃出来ない。お前たちは光正でワイバーンを討伐出来る唯一の人材だ。それと、赤石山脈まで連れて行ける方法はない。ユース以外は風魔法を使えるから小出にでも連れて行ってもらってくれ。スビティスシィを渡すからいざというときに鳴らすように。先生たちも向かうが私を含め一部の先生しか一緒に飛んで行けない。一般の攻略者も他の攻略校の人たちも向かっているはずだから全員と協力してワイバーンを討伐するように。期待しているぞ。さ、向かいなさい」
俺たちは鷲田先生に背中を押されワイバーン討伐に向かった。そこで問題となったのがユースをどうやって連れて行くかだ。他の三人は風魔法を使えるが、ユースは使えない。という事はどうにかしてユースを連れて行かなければならない。俺がどうしようか悩んでいるとユースが俺にしゃがむように促した。俺は疑問に思う事なく従うとユースは俺の背中に乗って来た。おんぶで連れて行ってもらうつもりのようだ。一刻を争う事態なのでユースがいいのならとおんぶでユースを連れて行く事にした。
赤石山脈に近づくにつれてワイバーンの姿がハッキリと見えるようになった。そこで初めて武帝が言っていた本能がヤバいという感覚が分かった。だが、ここで逃げるわけにもいかず本能を押し殺してワイバーンに向かった。ワイバーンは空中で火を吹いており、その先には一般の攻略者と思しき人がいた。複数人で空を飛びながらワイバーンの気を引いており逃げるので精一杯という感じだった。俺とユースを除く三人はその状況を視認すると一気にスピードを上げた。俺はユースをおんぶしているためスピードを上げるわけにはいかず、ユースに指示を出した。
「全力の雷魔法用意して。雷王の剣使ってもいいから」
「分かった」
ユースは雷王の剣を抜き全身に雷を纏った。俺にも雷が纏わりつき変な感覚だったが、仕方がないと耐えた。三人が戦い始めたと同時に俺たちは魔法が届くぐらいの距離まで来た。ユースは全力の雷魔法を撃つために集中しており、こちらにワイバーンの注目が来ないように適切な距離感を保った。ワイバーンは俺たち以外の人たちに釘付けでこっちは見向きもしなかった。今がチャンスだと思ったが、ユースの準備はまだ整っておらずもどかしくなった。その時、ワイバーンがこっちを向いた。ユースの雷魔法を察知したのか火を吹いてきた。俺はユースの集中が切れないように慎重に避けた。すると、他の人たちが自分たちの方に注目させるように攻撃をしてくれた。だが、ワイバーンは俺たちへの攻撃をやめなかった。
「ユースもうヤバい!」
「お待たせ」
ユースがそう言うとワイバーンに落雷が発生した。その落雷は俺の古代魔法にも匹敵しそうなぐらいの威力だったが、流石天災級モンスターのワイバーンと言った感じであまりダメージにはなっていなかった。
「マジー?」
ユースの言葉に呼応するようにワイバーンが火を吹いてきた。さっきより明らかに殺意のこもっていて火のスピードが格段に早くなっていた。俺は全力で逃げるのに徹した。ユースはその間も魔法を撃っていたが、全然効いていないようでヘイトを買っているだけだった。その時、鷲田先生の声が聞こえた。
「こっちだワイバーン!」
鷲田先生はそう言うとワイバーンの顔面に爆発魔法をくらわせた。多少ダメージになったのかワイバーンは鷲田先生を攻撃し始めた。このままユースをおんぶしたままだと全力を出せないと判断しユースをプライシディウムの上に立たせた。ユースは瞬時にプライシディウムだと理解したが、端の位置が分からず困惑していた。なのでプライシディウムでユースの周りを囲む事にした。
「もしヤバくなったら教えて。その時は助けに来る」
そう言い残し豪嶽砕を取り出し擦り合わせた。両腕にスペチーフィカも発動させるとワイバーンは鷲田先生から俺にターゲットを変えた。このワイバーンは瞬時に一番厄介、警戒しなくてはならない相手を見抜いていると感じたが、好都合だとワイバーンに向かって行った。真正面から来る俺をワイバーンは噛み殺そうとしたが、俺は風魔法で瞬時にワイバーンの噛みつきを躱し頭上から豪嶽砕を振り下ろした。ワイバーンは初めて悲鳴を上げた。だが、それと同時にボルテージを一気に上げて攻撃のスピード、火のブレス、爪での攻撃、全てが何段階も強力になった。俺はスペチーフィカを切りプライシディウムを発動させた。この間もユースのプライシディウムは発動させたままで窮屈だと感じているとユースが言った。
「私のことは気にしないで! ワイバーンに集中して!」
「鷲田先生ユースを!」
俺はユースのプライシディウムを解除してワイバーンに全力を出せるようになった。忘れられた記憶の断片から万物潰崩と劣覆拳を取り出し両腕にスペチーフィカを再び発動させ俺の全力をワイバーンにくらわせることにした。劣覆拳でワイバーンと同等の力を得た俺はありったけをぶつける事が出来るようになった。ワイバーンはそれを察知したのか火のブレスを吹いてきたが、自分のプライシディウムを信じて真正面から突撃した。ワイバーンはまさか俺がブレスの中から来るとは思っておらず、スペチーフィカをのせた万物潰崩の全力を脳天にくらい地面に押し付けられるように撃墜した。俺はトドメだと再び万物潰崩をワイバーンの脳天にくらわせた。その結果、地面は数メートル凹みワイバーンの頭は地面に埋まった。
「しゃあああ!」
ワイバーンを討伐した俺は雄叫びを上げ全身で勝利を噛み締めた。まさかワイバーンを倒せるなんてと思っているとじいちゃんと武帝、シロ、水戸さんの声がした。
(流石健ちゃんじゃの)
(俺様が鍛えてやったおかげだな)
(流石健斗って感じだな)
(おめでとうございます! まさかワイバーンを倒せるなんて! サポート魔法役に立ったようで良かったです!)
前者三人はなんか慣れてるというか淡白な反応だったが、水戸さんの褒めちぎってくれる感じで自己肯定感が満たされた。色んな意味で強くなって良かったと思える瞬間だった。俺が勝利を噛み締めているとユースや鷲田先生、先輩方が俺のことを目一杯褒めてくれた。強いって気持ちいいと感じた。他者から褒められ崇められ尊敬される。その感覚が俺の全身を包み込んだ。
ワイバーンを討伐してからは忙しかった。競技会の時以上に世間から注目されテレビの取材を受けたりした。ユースは俺にこれが有名人になってことよと言ってきた。ユースたち超有名人の苦労が少しは分かった気がする。学校では先生たちが俺に絡みに行かないようにと釘を刺してくれていたためそこまで苦労しなかったが、有名人になるのは面倒だと心底思った。
次回もお楽しみに




