71話 中断
刺青の男と出会って心労が溜まり眠ることで疲労回復させていると勝に起こされた。
「健斗、先生が集まれって」
攻略授業を続けるかどうかの話し合いが終わったのだと理解したため眠たい目を擦りながら体を起こし集合した。まだ眠たく大きなあくびをしていると尾形先生が話しかけてきた。
「小出くん大丈夫? まだ疲れてるなら寝てても大丈夫だよ」
「大丈夫です。ヤバかったらこの後寝るんで」
「そう?」
尾形先生に心配をかけないように返事をした。尾形先生はひとまずといった感じの反応だった。尾形先生と話していると鷲田先生が俺たちの前に出て話を始めた。
「休憩中に申し訳ないのですが、みなさんに伝えなくてはならないことがあります。少し前、アルトロポーファティを討伐しましたが、そのアルトロポーファティは正体不明のある男によって持ち込まれた個体だったことが判明しました。その男が今世間を騒がせているヴェナトレスと関係しているのではないかと先生たちの中で結論づけました。したがって、今回の攻略授業はここで中断したいと思います」
先生たちの決断に生徒たちは賛否両論だった。だが、先生たちとしては生徒を危険な目に遭わせるわけにはいかないしこの決断を変えるつもりはないだろう。それならどうやって生徒たちをおさめるのか。そんな事を思っていると鷲田先生と目があった。頼むと言われているような気がしたが、一歩が出ないでいるとユースが背中を押してくれた。物理的にも精神的にも一歩進めた事でやるしかないと思いみんなの前に出て話す事にした。俺がみんなの前に出ると少しザワザワした。
「みなさん聞いてください。俺は昨日先生たちの指示でダンジョン内の見回りをしてました。その時に正体不明の男に出会いました。その男はアルトロポーファティを利用して攻略者を犠牲にし、アイテムを奪おうと考えているそんな人間とは思えない考えの持ち主です。その男がどこに行ったのかは分かりません。もしかしたらこの話を聞いている可能性だってあります。そんな状況で授業を続けたいですか? 俺は嫌です。いいと思っている人もいるかも知れませんが、嫌だと思っている人も多くいます。その人たちの事を考えてください。無駄なリスクを負ってまで授業を続ける必要はありません。今回はダメでも次回はうまくいくかも知れないんですから今回は先生たちの判断に従いましょう」
俺の言葉に反論する生徒はいなかった。鷲田先生を一瞥するとよくやってくれたと言わんばかりの表情だった。自分の役割を果たしたので元いた場所に戻るとユースたちが褒めてくれた。すると、鷲田先生が次の指示を出した。
「それではみなさん帰る準備をしてください。忘れ物等ないようにきちんと確認するように」
鷲田先生の指示に従い俺たちは帰る準備を進めた。なるべく早く準備するように塩田先生に言われていたので急ぎながらも忘れ物はないようにした。アイテムも全部持ったし忘れ物はないことを確認して再び集合した。
「みなさん忘れ物はありませんね? それでは担任の先生方は最終確認をお願いします。光正大のみなさんは各自帰宅してください。それではみなさんは私についてくるように」
金田先輩は俺たちと一緒のタイミングでダンジョンの出口までついて来てくれた。あの刺青の男の正体は分からずじまいだが、今はまだ首を突っ込む時ではないと俺の野生の勘が言っている。シロに教えてもらったことがここでも役に立ったなと思った。事前に買っていたジャーキーやボールなど遊べる物を持って行ってあげようと思った。ダンジョンに入る前に一泊だけした旅館まで着くとロビーで先生が次の指示を出した。
「帰りのバスが現在こちらに向かっています。後一時間ほどかかるそうです。旅館の方のご厚意でここで待機させていただける事になったのでなるべく静かに待機してください」
俺たちは一時間暇になり各々時間を潰した。スマホをいじったり騒がないように友達と遊んだりした。俺はぼーっと景色を眺めていた。あの刺青の男の正体、どこに行ったのか、アルトロポーファティの入手方法など考えていると武帝の声が聞こえて来た。
(おい健斗、お前まだあの男のこと考えてるのか? アイツ考え込むほど強くねぇぞ。お前の友人の勝ってやつでも多分勝てるぐらい弱いぞ)
武帝の言葉に驚いた。あの見た目の男が勝より弱いという事に。それよりあの男について武帝と話したいため誰もいない場所に移動した。そこでもなるべく小さな声で武帝に話しかけた。
「アイツ勝より弱いんですか?」
(そうだ。アイツからはオーラを感じない。強者はどうやっても隠せないオーラが感じ取れるんだが、アイツからは全くと言っていいほど感じ取れない。おそらくだが、ヴェナトレスとかいう集団にアイツが所属していたとしても相当な下っ端だぞ)
「ちなみにどうやって相手が強いかどうか分かるんですか?」
(どうって、慣れというか経験としか言えないな。何というか本能が相手の強さを感じ取ってる感じかな? まぁうまく言語化出来ないが、とにかく相手に対して本能がヤバいって警告したら本当に強い奴だ。あの男に対して本能がヤバいって警告してないってことはそういうことだ)
言われてみれば確かにそうだ。あの男に対して俺の本能がヤバいって警告を出したりはしなかった。見た目から少し怖いなという印象は受けたが、至って冷静に対処出来たし武帝の言ってることは合っている。とは言え、俺一人の体感が攻略授業を続ける理由にはならない。周りの生徒が犠牲になっては遅いし、あの男が他のモンスターをダンジョン内に放つ可能性だってあった。先生たちの判断は間違っていなかったし、俺の判断も間違っていなかった。そう思う事にした。
(相手が強い奴かそうじゃないかを見極めれるようになるまでは下手に首突っ込まないのが一番だ。お前の選択は正しいよ)
武帝に正しいと言われてひとまずほっとした。そんな話をしているといい時間になって来たのでみんなのところに戻ろうとしたその時、視界の先に刺青の男が見えた。さすがにここにいるのがバレるのは面倒な事になると思い俺の独自魔法のヌラ・レフラリフレクティブを発動させた。刺青の男は俺に気づく事なくどこかに行った。安堵のため息をつくとじいちゃんが言った。
(早速使いこなしておるの。さすがは健ちゃんじゃ)
じいちゃんは上機嫌に言った。俺としても性能を確かめられて良かったが、こんなドキドキすることしたくはないなと思った。ロビーに戻るともうみんなは移動を始めており俺もそれに倣い移動した。バスに乗り込む前に金田先輩に別れを告げることにした。
「しばらくお別れですね。大学生活頑張ってください」
「そうだな。小出も頑張れよ」
勝も別れを告げバスに乗り込んだ。金田先輩は最後まで手を振ってくれ俺たちも手を振り返した。金田先輩が見えなくなると同時にもうしばらく会えないことを実感した。バスの中ではみんな楽しそうに会話していたが、俺と勝は金田先輩との別れから少し寂しい思いをした。
次回もお楽しみに




