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忘れられた記憶の断片から力を得れる俺は小出しで成り上がる  作者: 描空
学生編

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7話 修行

「何から始めようかのぉ……」


 師匠は自慢の長い髭を触りながら考えている。おそらく師匠ほどの人だと、俺みたいな初心者が使うような魔法は使わないだろうから悩んでいるのだろう。俺が何か口出しするのは失礼だろうし、考えている最中に話しかけられるのは嫌だろうから黙って待っていた。


「よし決めた」


 師匠が答えを出した。俺はどんな魔法を教えてくれるのかワクワクが止まらなかった。


「まずは簡単な魔法から始めるぞ。最初は何のヒントも無しで見様見真似でやってみよ」


 師匠はそう言うと、右手の人差し指を立ててそこに小さな火を出現させた。


「おぉー!」


 俺は今まで魔法を見たことが数えるぐらいしかなく、生で見たのは入試の時と今回の二回しか見たことがなく子どものような反応をしてしまった。


「魔法を見てそんなに目をキラキラさせるとは、お主よほど魔法が好きなんじゃな」


 思っていたような受け取られ方はしなかったが、師匠はとても嬉しそうにしておりこれはこれで良いなと思いそのままにした。


「ほれ、やってみよ」


「は、はい!」


 俺は師匠に急かされ見様見真似で魔法を使えるか試してみた。アイテムは力や思いに応じてくれるため、魔法も同じだろうと思い心の中で杖の先端に火が出現するイメージしてみた。でも、魔法は俺の思いに応えてはくれなかった。


「お主、魔法についてどれぐらい知っておるんじゃ?」


「これっぽっちも知りません」


「そ、そうか……それじゃあ座学から始めるか」


 そこから俺は師匠に魔法とは何なのか、魔法の動力源は何なのかなど様々なことを教えてもらった。師匠曰く、魔法とは自分の思い描いた物を具現化させる力らしい。そして、魔法を具現化させるためには体内に流れるマナを感知することが絶対条件なのだそうだ。俺は初めて聞く知識にメモできる事は全てメモした。


「それじゃあマナを感じるところから始めるぞ。準備は良いか?」


「え、俺は何をすれば良いんですか?」


 師匠の急な申し出に俺は少し戸惑った。すると、師匠は俺を落ち着かせるように言った。


「何もする事はない。儂がお主にマナを流す。お主はそのマナを感じるために心を落ち着かせる事だけしてれば良い」


「わ、分かりました」


 俺はゆっくり深呼吸をして目を瞑った。すると、師匠が後ろから両肩に手を置いた。今からマナを流してくれるんだと思ったが、自分を落ち着かせてマナを感じ取れるように集中した。師匠が両肩に手を置いて数秒すると、俺は背筋がゾクゾクするような感覚に襲われ全身に鳥肌が立った。すると、師匠が両肩から手を離した。


「お主、今の量のマナを感じ取れるのか!?」


「え? わ、分かりません? でも、なんか背中がゾクゾクして。そもそもマナが流れる感覚を知らないので今のがそうなのか分かりません」


「それじゃあもう一度流してみる。またさっきみたいになったら言ってくれ」


「分かりました」


 俺はもう一度目を瞑ってマナを感じ取れるように集中した。すると、今度は背中から足に向かって何かが流れるような感覚があった。俺は現状をそのまま伝えることにした。


「今、背中から足にマナだと思われる物が流れている感覚があります」


「まさかこれほどマナ感知に優れているとはな。それじゃあ今度はさっきまで流れていたマナの感覚を手に集める事はできるか?」


「やってみます」


 俺は先ほどまでの感覚を右手に集中させた。師匠はそれを感じ取ったのか次の指示を出した。


「それで火をイメージしてみよ。なるべく明確にな」


 俺はライターの火をイメージしてみた。小さいながらも途切れる事なく燃え続けるその火は、いつしか俺の右手の上に出現していた。


「まさか一発で成功するとは、お主には魔法の才能がある! これから忙しくなるぞ!」


 師匠が一人でテンションを上げているのを見ると、どうにも止める事はできずそのテンションについて行くことにした。そこから師匠は俺に基本的な火、水、風の魔法を教えてくれた。どの魔法もあまり立派な物は出現させられなかったが、師匠は始めたばかりで魔法を出現させられること自体素晴らしいと褒めてくれた。しばらく師匠から魔法を学んでいると、ふと何時間経ったんだろうと気になった。そこでようやく俺は栄誉のダンジョンにいて迷子になった事を思い出した。俺は父さんに買ってもらった腕時計を見ると、まだ授業が始まって一時間しか経っていなかった。そこにも驚いたが、腕時計の秒針が動いていないことに気がついた。俺はこれがどういうことなのか師匠に聞いた。


「師匠、時間が進んでないんですけどどうなってるんですか?」


「師匠? まぁ間違っていないか。時間のことじゃが、ここはどういうわけか時間が止まっておるんじゃ。その仕組みは分からんが、忘れられた記憶の断片(アルカディアリベル)の力としか説明できんのじゃすまんな」


「いえいえ師匠は謝らなくて結構です。それより時間が進んでなくて良かったです」


「そうじゃな儂にとっても時間が進まないのはありがたい。お主にいくらでも魔法を教えれるからの」


 優しそうに笑う師匠に俺は苦笑いをするしかなかった。それからまたしばらく魔法の使い方のコツや早くマナを集中させる方法を教えて貰った。


「よし。杖無しで魔法を使うのにも慣れたじゃろうし、杖を使っての魔法に移行しようかの」


 俺はまだやるのかと思ったが、時間が流れていないからか、ここが特殊な空間だからか分からないが一切疲労が溜まっておらず休憩を申し出せずにいた。


「まず杖の基本的な事から教えよう。杖は物によって得意な魔法と苦手な魔法がある。儂がお主にやった杖は秀でた魔法はないが、苦手な魔法もない所謂万能型じゃ。それと、大抵の杖はマナ集中の補助をしてくれたり、効率を上げてくれる。今まで魔法を使うのに時間がかかっておったが、その時間が短縮されると思ったら良い。質が良い物じゃと威力も上げてくれたりするが、お主にやったのにはそんな効果はない。ともかくやってみよ」


 一瞬だけ期待したが、そんな期待はすぐに折られた。そんなに甘くはないよねと気持ちを入れ替えた。俺は集中してマナを杖に集めると、杖が掃除機のようにマナを強制的に掻き集めているのが分かった。これは補助というより暴走に近くないかと思っていると、師匠が言った。


「それではダメじゃ。自分でも分かっておるとは思うが、杖を制御できておらん。杖はこういう少し癖のあるアイテムなんじゃ。じゃから儂は杖が嫌いなんじゃ。でも、お主なら制御できると儂は思っておるぞ」


 師匠の期待に応えるために俺は努力した。さっきは杖無しで魔法を使う時と同じ量のマナを送ってしまっていたのが原因だと判断し、今回はマナの量を半分まで減らして行ってみた。杖にマナを掻き集められている感覚はあるが、マナの量自体を制御しているためちょうど良い感じだった。その結果、杖は暴走する事なく程良く機能してくれた。


「マナの量を減らすとは考えたのぉ。それなら一回に使うマナも少なく済むし、杖が魔法出現までサポートしてくれるから早く出現させられる。上手く扱えておるな」


 師匠に褒められて自然と笑みが溢れた。


「よし。今日はこの辺りにするか」


 突然の申し出に困惑したが、たくさんのことを教えて貰ったし師匠の時間もかなり奪っている。いや待てよ。師匠は忘れられた存在だって自分で言っていた。それに、アイテムの中にいるなんて変だ。師匠は人間ではないのではないかと思った。でも、そんなこと聞いて師匠の機嫌を損ねて魔法を教えて貰う機会がなくなったら嫌だしと悩んでいると師匠が言った。


「どうしたんじゃ? 何か悩み事でもあるのか?」


「いやそういうわけじゃないんです。えっと、また魔法を教えて貰えますか?」


 流石に師匠の機嫌を損ねないように本音ではあるが、最も聞きたいことではなく建前を言うことにした。


「別にいつでも良いぞ。儂はここで暇しておるからな。むしろ来てくれた方が儂は嬉しいぞ。孫がいたらこんな感じなんじゃろうなって」


 この雰囲気からもっと仲良くなれば師匠の正体を知ることに繋がると思い、思い切って踏み込むことにした。


「じゃあじいちゃんって呼んで良いですか?」


「じいちゃんか良いぞ。ならお主の名前も教えてくれ」


「俺は健斗です。健ちゃんって呼んでください」


「健ちゃんか。改めてよろしくな健ちゃん」


「うん!」


 じいちゃんはとても嬉しそうに笑っていた。俺も自然と笑顔になった。もうじいちゃんが誰であっても良いやと思った。こんなに親切にしてくれたんだから人となりなんて関係ないと思ったのだ。俺は現実世界に戻ろうと思ったが、どうしてもできずに頭を悩ませているとじいちゃんが忘れていたのか焦ったように教えてくれた。


「忘れておった。ここを離れる時はキールと唱えるんじゃ。またここに来たいと思った時はアペルタと唱えるんじゃ」


「分かった。それじゃあ改めて、またねじいちゃん」


「あぁまたな」


「キール」


 そう唱えると栄誉のダンジョンに戻ってきた。俺は右手に杖を持っており違和感を覚えた。なんでアイテムから別のアイテムが出てくるんだと不思議に思った。そんなマトリョーシカじゃないんだからと思っていると、背後から複数の足音が聞こえてきた。俺はゴブリンに追われていることを思い出して走った。でも、俺の頭の中には魔法を試したいという気持ちがあった。走りながら試しにマナを杖に集中させてみると、思っていたより少ないマナで大きな火魔法を出現させることができた。これはチャンスだと思い、ゴブリンが来ている方向に向かって火魔法を飛ばした。


「グギャア゛ア゛!」


 ゴブリンの悲鳴が聞こえてきた。俺は後ろを振り返ると複数のゴブリンに火魔法が命中しておりダンジョンが明るくなっていた。その明るさのせいで俺がどれほどのゴブリンに追われているのか可視化されてしまった。地面を覆い尽くすほどのゴブリンがこちらに向かって走ってきていた。ヤバいと思うと同時にどうにかしないとと思い、とにかく火魔法をゴブリンに向かって飛ばしまくった。ある程度走り後ろを振り返ると、いつの間にかゴブリンは追って来ておらず一安心した。一安心したが、勝たちを放ったらかしにしているのは変わっていないため早速探しに行った。


「みんなー! 聞こえたら返事してー!」


「健ちゃんどこー?」


 微かに春奈の声が聞こえてきた。ダンジョン内だから色んな方向から声が反響してどこにいるのか全然把握できない。そこで俺は妙案を思いついた。じいちゃんから習った風魔法を使うことだ。おそらく俺より春奈の方が出口に近いだろうし、勝たちもいるだろう。だから、風魔法で風を送り春奈の元に行くという案だ。


「春奈ー! 風を感じたら言ってくれ!」


 俺は自分の正面に風魔法を使って風を送った。


「届いてるよー」


「そこで待っててー!」


 俺は正面に向かって走った。すると、勝の声が聞こえて来た。


「健斗ーどこだー?」


「勝動かないで待っててー!」


 俺は火魔法で自分の行先を照らしながら走った。


「え、火!?」


 勝が俺の火魔法に反応した。ということは近くにみんながいる。俺は火魔法をその場に留めそこに急いで走った。


「健斗! お前どこ行ってたんだよ!」


「ごめん。それよりみんなは?」


「こっちだもう帰るぞ」


 俺は勝の導きでみんなの元に帰って来た。ダンジョンを出る道中俺の魔法のことについて色々聞かれたが、ダンジョンで見つけた宝箱に入ってあったということにした。みんなは良いなと羨ましそうにしていた。いつかみんなもゲットできるよとその場は流しておいた。出入り口に着くと鷲田先生がいびきをかいて寝ていた。塩田先生と尾形先生は身の安全を心配してくれ教師としての差というか慣れというか少し嫌な部分が見えてしまった。尾形先生が寝ている鷲田先生を叱ってくれスッキリしたが、元を言えば俺のせいなため程々で尾形先生を止めた。俺たちが栄誉のダンジョンを後にしようとした時、塩田先生が俺と勝に言った。


「部活やってるから顔出すだけでもしていけよ」


「「はい」」


 俺たちは栄誉のダンジョンを後にした。俺と勝は部活があるから訓練場に向かった。透と春奈も見てみたいとのことだったので一緒に向かった。

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