6話 授業②
午前の授業を終えた俺たちは食堂で昼ご飯を食べていた。いつも通りいつメンと食べていると、ユースさんが一人で昼ご飯を食べているのを見つけた。
「ねぇユースさんって友達いるのかな?」
俺はユースさんがヨハネス夫婦の子どもだからという理由で友達がいない、できないのなら可哀想だと思いみんなに話した。
「友達ぐらいいるんじゃないか? それに、まだ光正に入って一週間も経ってないんだし友達ができなくても仕方ないんじゃないか?」
勝の発言はもっともだ。でも、ユースさんはどこか寂しそうな顔をしているように思えた。もしかしたら友達になってくれる人を欲しているんじゃないかと錯覚するほどに。
「話しかけに行く?」
春奈は楽しそうな表情で言った。俺の一言がユースさんがクラスのみんなと話せる一歩になれば良いなと思って話しかけることにした。
「ねぇねぇユースさん。もし良かったら俺たちと一緒に食べない? 俺はクラスメイトの小出健斗。健ちゃんって呼んでよ」
「……間に合ってますので」
俺は一瞬何の思考もできないほどショックを受けた。普通に仲良くしたかっただけなのに、友達になりたかっただけなのに。俺のことなんて有名だから友達になっておこうと思っているような下心しかない奴らと一緒にされたんだと酷く落ち込んだ。トボトボとみんなの所に戻ると、みんなは今までにないぐらい優しく慰めてくれた。でも、今の俺にはみんなの慰めの言葉は右から左に通り抜けるだけの雑音にしかならなかった。昼ご飯もまともに味がしない。そんな状況だった俺は逆転の発想でこの窮地を切り抜けることを思いついた。ユースさんが友達になりたいと思えるような人材になれば良いのだと。俺は昼ご飯を食べ終えるとみんなに手伝ってもらうように頼んだ。
「強くなりたいからみんな手伝ってくれ!」
俺の突拍子もない発言にみんなは一瞬唖然としていたが、みんな仕方ないなと手伝ってくれることになった。光正は昼休みが一時間半もあるため、昼ご飯を食べ終えると多数の生徒は各々好きなことをする。スポーツをする人やトレーニングルームに行く人など様々だ。
俺はその昼休みの空き時間を訓練に使うのだ。今日授業でやった基礎戦闘術やこれから先やるであろう授業でやったことを自分のものにする時間とする。職員室で訓練場の鍵を借りて中に入った。そこには壁一面に剣から槍など様々な武器の木製版が置いていた。訓練場の鍵を借りる時に塩田先生が自主訓練するなんて偉いと褒めてくれたが、自分からこの環境で訓練しようとする生徒は少ないだろうなと思うほど圧巻の光景だった。
「すげーな」
「ねー」
普段から授業で心身ともに疲労した状態でここには来たくないと思ったが、逆にこの状況に身を置くことで自分を後押ししてくれる存在を意識して訓練に打ち込めると自分を奮い立たせた。
「よし勝打ち合いしてくれ。透と春奈は俺を邪魔するように変なタイミングで横から槍を突き刺そうとしてくれ」
「そんなことして良いの?」
「じゃないと訓練にならない」
心優しい春奈にこんなことやらせるのは少し気が引けたが、そうでもしないと訓練として意味がない。そう自分にも言い聞かせた。
「じゃ、じゃあ変なタイミングでやるよ」
「あぁ」
「十分タイマーするからね。よーいスタート」
透の合図で俺と勝は打ち合いを始めた。今回は盾を使わず、剣のみでどのくらいできるのか把握するために行った。勝との打ち合いに集中していると透と春奈の横槍に気付けない。だからと言って横槍に集中すると勝との打ち合いに負ける。これはかなり難しかった。最初だからというのもあるだろうが、脇腹を刺されては勝に木剣を打ち落とされ、横槍を防いでも勝の剣を防ぐのに間に合わない。俺にはまだまだ技術もスピードも経験も足らない。この差を埋めることができるのは訓練のみだと自分に言い聞かせた。何とか十分タイマーが鳴るまでやったが、思っていた以上に疲労が蓄積され一回でかなり体力を消耗した。
「お疲れ様。今度は俺にもやらせてくれよ」
勝の言葉に俺は少し休憩をさせてもらい体力が回復するまで待ってもらった。体力も十分に回復したため俺と勝の立ち位置を入れ替えてやってみた。さっきまでは自分のことで手一杯でどんな状況なのか把握できなかったが、横槍を気にして俺の事に全然集中できていないのが分かった。そもそもダンジョンでこんな場面になるのを防ぐのが生き残る術だと気がついた。でも、俺は強くなるためにやっているので今は関係ないと流す事にした。そんな時十分タイマーが鳴った。
「あーしんど!」
勝は地面に座り込んだ。体力には自信のある勝も流石に三対一は厳しいのだろう。でも、一度経験した俺と勝は改善点やどうすれば良いのかという理想の姿を見ることができた。後はただ自分を鍛えて理想の姿になれるように毎日続けるだけだ。そう思っていた時訓練場のドアが開いた。俺たちは誰か来たのかと見てみるとそこには塩田先生と先輩と思しき人がいた。
「金田コイツらがその一年生だ。ガッツあるだろ?」
「そうですね。君たちもし良かったら近接戦闘部に入らないか?」
まさか塩田先生は俺たちに部活に入らせようとこの先輩をここまで連れてきたのかと驚いた。でも、よく考えてみれば訓練を部活にしてしまえば習慣化できるし、先輩たちから色んなことを学べるのではないかと思った。でも、思っていたのと違ったら嫌だと思いその旨を伝えた。
「仮入部とかないんですか?」
すると塩田先生が答えた。
「もちろんあるぞ。一週間は仮入部で部長から入部届を貰って俺に提出したら入部完了だ。他の部活もあるから違うなと思ったら入部しなくて良い。でも、近接職ならここが一番だ。ちなみに顧問は俺な」
「とりあえず仮入部します」
「俺も」
透と春奈は近接職志望ではないため入らないだろう。
「それじゃあ放課後ここに来てくれ。ちなみに部長は俺な。名前は金田庄司よろしく」
「「よろしくお願いします」」
俺たちが挨拶をしていると昼休みが終わるチャイムが鳴った。
「もうこんな時間かお前たち行くぞ!」
俺たちは塩田先生について行った。集合場所にはもう全員集合していたように思えるほどの人数がいた。
「塩田先生何してたんですか!? 教師が遅刻するなんて……」
そう言う女の先生はよく言えばベテラン魔女、悪く言えばお局のような先生だった。この先生を怒らせたらダルそうだなとその場にいた生徒は瞬時に理解しただろう。現に塩田先生がその先生にぐちぐちと小言を言われていたからだ。すると、学年主任の鷲田先生が一言発した。
「本日、ダンジョンに同行してくださる尾形先生だ。尾形先生は主に回復魔法とサポートに長けた大ベテランの先生だ。これから先、尾形先生にお世話になることは何度もやってくる。その都度感謝の言葉を忘れないように!」
鷲田先生が尾形先生にバトンパスした。
「え、えっとご紹介に預かりました尾形です。私はみなさんが攻略者になれるようにバックアップするのが主な職務内容となっています。この中にも私のようなことができるようになりたいと考えている生徒はいるでしょうが、一から十までは教えません。私はみなさんが成長できるサポートを致します。ですので、分からない事はどんどん聞いてください。みなさんの成長に役立つようなアドバイスを致します。三年間よろしくお願いします」
俺は精一杯拍手をした。おそらく生徒の中には尾形先生を毛嫌いしている人もいるだろうが、言葉をそのまま受け取るなら一番ためになる先生かも知れない。答えではなくアドバイスというのがミソだ。答えだけ教えられても身につかないから、自分で答えに辿り着けるようにアドバイスをくれる先生が最も必要だと思うからだ。
「それじゃあダンジョンに向かうからついて来いよー」
そう言うと鷲田先生は光正の裏山に向かって駆け足で向かった。
「今から向かう山には栄誉のダンジョンって言うダンジョンがあるんだ。そこは光正の管理下だから先生とっ捕まえて一緒に行ったらいつでも行けるダンジョンだからいつでも行っていいぞ。まぁ今まで授業以外で許可された生徒はいないがな」
鷲田先生の言葉に俺は目を見開いた。何故なら、この前見たライブ映像に栄誉のダンジョンにあなたにピッタリなアイテムがあると書いてあったからだ。でも、問題点がある。今回で見つけられなかったから次はないかも知れない事だ。疲労感はかなりあるが、そんなこと気にしていられないぐらいマジで取り組まないと一生の後悔になるかも知れない。でも、それを悟られて他の人もアイテム探しに躍起になるのはごめんだ。だから、俺は今回の授業でモンスターよりアイテムを優先する事にした。
「よしもうすぐしたらダンジョンだ。基本的に複数人で行動する事。後は特に何も言う事はない。モンスターと戦っても良いしアイテムを探しても良い。制限時間は放課後までだ。それまでの間はずっといても良いし、すぐに出て帰っても構わん。質問はないな?」
鷲田先生は山の中腹辺りで立ち止まり胸ポケットから杖を取り出した。透の杖はかなり大きい杖だったが、それとは違い二十センチほどの杖だった。先生が杖を振ると、一瞬にして山肌が無くなりダンジョンの入り口が現れた。栄誉のダンジョンも入試のダンジョンと同様に洞窟のようだった。光正が管理している大体のダンジョンはこのような洞窟の形状をしているのだろうと思った。
「今から入るけど怪我したくない奴とかアイテム欲しくない奴も一度は入るようになー」
俺は鷲田先生の後ろにピッタリとくっつき一番最初に栄誉のダンジョンに入った。勝たちも俺についてきており、三人にも自分にピッタリなアイテムを探させようと思った。俺は我先にととりあえずダンジョンを突っ走った。
「健ちゃんどこまで行くの?」
透の呼びかけに俺はもう良いだろうと思い足を止めた。
「どうした健斗なんか変だぞ?」
勝の言葉はもっともだが、俺には理由があってのことだ。でも、何となくライブ映像の事は黙っていた方が良いような気がしたので嘘を言うことにした。
「普通に考えてアイテムは他人に渡したくないじゃん? だからなるべくみんなが来るより先にって」
「そうだけど限度ってものが……」
春奈が息を荒げながら言った。
「みんなは休憩しといて良いよ。俺はアイテム探してくるから。英雄級を見つけてやるぞー!」
俺はテンションを上げてなるべく真意を悟られないようにした。みんなは本当に休憩しているらしく俺は今のうちにアイテムを探した。だが、アイテムは全然見つからずひたすら歩いていると、今の間にか自分が今どこにいるのか分からなくなった。まぁ大丈夫だろうと思ってアイテム探しを続けた。それにしても広いダンジョンだなぁと思っていると、少し開けた空間に出た。俺の勘が絶対に何かあると言っているのが分かった。俺はなるべくゆっくり丁寧にその開けた空間を観察した。でも、モンスターやアイテムが入っているような宝箱は見つからず少し残念に思っていると、開けた空間の奥の方から何やら音が聞こえてきた。グチャグチャと鳥肌が立つような音にその場を立ち去ろうとしたが、踏みとどまった。自分に喝を入れじっくり観察していると、奥の方にゴブリンのようなモンスターが何かを食べているのがうっすらと見えた。ゴブリンが相手でも俺はまだ戦闘経験も全くないし、アイテムの使い方も分からない。なるべく戦闘は避けた方が良い。そう思っていると、ゴブリンが食事を終えたのか寝転がり始めた。今ならいけると判断した俺は氷刃剣を鞘から抜くと、鞘と刀身が触れる音で警戒されてしまった。俺は急いだ姿勢を低くして見つからないようにした。
「グルルゥ グル」
「グルグル」
何やらゴブリンが会話しているようだった。俺はそのままどこかに行ってくれと思っていると、一匹のゴブリンはその場に残り一匹のゴブリンはその空間のさらに奥に行った。俺は今ならゴブリン一匹だから誘き出せば倒せると思い、自分の位置から見て左斜め前に石ころを投げた。すると、ゴブリンはその位置に向かって歩き始めた。おそらく耳も目もゴブリンの方が優れている。なら、頭脳で勝つのみだ。俺は足音を出さないようにゴブリンの背後に回り込み、ゴブリンを一刀両断した。俺は今のうちにとさっきまでゴブリンたちがいた所に宝箱はないか探した。すると、地面に妙な凹凸を発見した。俺はそこを手で掘ってみると、鷲田先生が使っていた杖が入るぐらいの大きさの宝箱を見つけた。俺はすぐさま来た道をダッシュした。ゴブリンが追ってくるかも知れないためかなり離れるまで走り続け、もう良いだろうと思えるほど距離を取った。俺は息を整えて宝箱を開けると、そこには一冊の本があった。俺はアイテムには詳しくなく本の形のアイテムがあるのかは分からなかったが、保健室の先生が本を使って治癒魔法を発動させていたのでこれもアイテムだろうと思い大事に懐にしまっておいた。
俺はアイテムに夢中となっておりみんなのことをほったらかしにしてしまっていた。みんなの所に行こうと思ったが、今度は今自分がいる所が分からないということに気がついた。俺はどうしようかと焦ったが、さっきの本に何か何か書いてあるのではないかと思い本を開いた。するとそこにはこう書かれていた。
ー窮地に立たされた時こそ学びを得ることができると我が人生で見つけたりー
俺が欲しいのはそういうことじゃなーいと叫びたかったが、ゴブリンが追ってきていたら自殺行為なためグッと押し殺した。俺は他のページに何かあると思いペラペラとページをめくったが、何も書いていなかった。俺は何だこの本はと思っていると、塩田先生が氷刃剣を渡す時に説明をしてくれたのを思い出した。力や思いに応じて刀身が冷気を纏ったり氷を出現させるとのことだった。なら、この本も俺の思いに応えてくれるはずだと思い、俺に力を授けてくれと目を瞑り思っていると人の声が聞こえてきた。
「何じゃ力が欲しいのか?」
俺はその声に驚き目を見開いた。すると周囲は真っ白で目の前には声の主であろう長老のような人が立っていた。
「あぁ……俺死んだんだ……」
俺はあまりにも非現実的な状況にゴブリンによって殺されたのだと思った。周囲は真っ白で髭が何十センチもあるような老人に会ったのだ俺はもう死んだんだ。そう思っていると老人が言った。
「お主はまだ死んでおらんぞ。それに、どこをどう見たらここが死後の世界じゃと思うんじゃ?」
「え、いやだって死後の世界ってこんな感じじゃないですか」
「まぁ良い。とりあえずお主の置かれている状況について教えよう。お主が手にした本みたいなのあれがアイテムなのは分かってあるだろうが、ここはそのアイテムの中の世界じゃ。そして、そのアイテムの名前は忘れられた記憶の断片と言う。つまり、儂は人間たちに忘れられた存在というわけじゃ。何故儂がこんな事を知っているのか疑問に思っているだろうから答えてやろう。それは儂にも分からん。おそらくこのアイテム内に保存、保管されている忘れられた記憶の誰かが説明役を行うことになってあるんじゃろう。そして、今回は儂が選ばれたというわけじゃ。さ、若者よ何でも質問して良いぞ」
「あ、えと……好きな食べ物って何ですか?」
俺はあまりに膨大な情報量に脳がパンクして意味のない質問をしてしまった。すると老人は笑いながら答えた。
「ふぉふぉふぉ、面白い質問じゃの。そうじゃのー……特に食べられん物はなかったが、好きな物は……もう忘れてしもうたわ。すまんの答えられんくて。それより、お主力が欲しいとか思っておったじゃろ? それは良いのか?」
「そ、そうです! 強くなれる方法を教えてください!」
俺はこんな凄腕魔法使いみたいな人に教えを乞えるなんてと思っていると早速老人が話し始めた。
「お主杖は持っておるか?」
「いえ持ってません」
「それなら儂の杖を一本やろう。儂が教えれるのは魔法だけじゃ。でも、必ず役に立つだろう」
「はい。頂戴致します!」
俺は老人から杖を手渡された。
「それじゃあ、一から教えてやるからの。しっかりと自分のものにするんじゃぞ」
「はい!」
何とも奇妙なアイテムのおかげで、俺はこの老人いや師匠に魔法を教えてもらうことになった。
ゆっくりお待ちください




