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アルカディアリベル  作者: 描空


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69話 救難者

 スビティスシィが刺した方向に向かって全力で飛んでいると森の植生が変わっていることに気がついた。さっきまでは青々とした木々が多かったのに、今飛んでいる辺りは枯れた木や僅かな葉っぱしか残っていない木しかなかった。地面は枯れた葉っぱで覆われており、その枯れた葉っぱが腐食して黒くなっていた。こんな見るからにヤバい場所に来るような連中いるのかと思っていると、進行方向に一本だけ青々とした大木が見えた。見るからにアレがここら一帯の栄養を根こそぎ吸っていると思い近づくと、人の声が聞こえてきた。


「助けてくれー!」


 下を見てみるとそこには木の根っこに巻き付かれた人が見えた。俺はその人を助けるために地面に降りようとしたその刹那、根っこが俺の方に向かって瞬時に伸びてきた。俺はすんでのところで避けられたが、なんでこの事を教えなかったのか問い詰めようと捕えられていた人を見ると、そこには人の形をした木があるだけだった。その瞬間、この大木がモンスターなのだと理解した。俺はこのことを伝えるために大声で叫んだ。


「スビティスシィに従い駆けつけている人に警告です! とても大きな大木は得体の知れないモンスターです! 近づけば根っこに襲われてしまいます! この声が聞こえた人で近接職の人は近づかないようにしてください! スビティスシィが鳴った事から生徒が被害に遭っていると思います。モンスターに詳しい方を連れてきてください!」


 俺は喉が張り裂けそうな程全力で叫んだ。すると、遠くから誰かが飛んできている事が確認できた。これで少しは状況が好転すると思っていると、飛んできていた人は鷲田先生だった。


「小出大丈夫か?」


「はい大丈夫です。それよりこのモンスターは?」


「アルトロポーファティだ。通称人喰い大樹。辺り一帯の全ての養分を奪い自分が頂点に立つという目的でしか行動しない厄介なモンスターだ。何よりコイツはその大きさから大抵の攻撃は効かない。植物の弱点と言ってもいい火にも耐性があるから討伐するのはかなり骨の折れる作業だ。でも、幸いなことにここには数多くの光正関係者がいる。皆の力を合わせればきっと」


 そんな事を話している間にもアルトロポーファティは養分を吸い大きくなっていた。俺たちが危機感を覚えていると、俺たちの下にスビティスシィに従い駆けつけてきた人たちが集まっていた。ユースと金田先輩はまだいなかったが、鷲田先生は一秒も無駄に出来ないと下に降りて作戦会議を始めた。俺もその作戦会議に参加した。


「時間がないので簡潔に話します。あのモンスターはアルトロポーファティと言い近づけば養分にされ死にます。火にも耐性がありそこまで有効打とはなりません。ただし、アイツにも弱点があります。それは、樹上です。アイツは植物である以上樹上からの攻撃には対処が遅れます。もしかしたら、根っこが樹上にいる我々にも攻撃してくるかも知れませんが地上よりは断然マシです。と言うわけで遠距離攻撃手段を持たない人はこの辺りにある人たちを休憩施設に向かうように行動してください。その際、共に戦ってくれる人がいればその人にも作戦を伝えてください。行動を開始しますよ!」


 鷲田先生の指示に従い近接職の人たちは自分の役割を全うするために大声で呼びかけ回った。遠距離攻撃が出来る俺たちはその場に残り作戦会議を続けた。


「私が保護バリアを張りますので皆さんはその上に乗り攻撃してください。風魔法を使いながら魔法を撃てる方はそのように。とにかく一刻を争う事態ですので速やかに行動お願いします」


 俺は指示された通りに風魔法でアルトロポーファティの上空を飛びながら火魔法や雷魔法を撃った。それでもイマイチ効果はないようだった。現代魔法では威力が足りないと判断した俺は古代魔法を準備した。足では風魔法を出しつつ古代魔法の準備をするのは慣れない作業で時間がかかったが、形にはなった。マナを何乗にも上乗せしそこに雷のイメージを付与した古代魔法は過去最高の出来だった。アルトロポーファティの三十メートルはあろう巨大な樹体を丸々飲み込むほどの落雷が発生した。その結果、アルトロポーファティの幹に大ダメージを与える事ができた。


「よくやった小出!」


 鷲田先生がそう言うと周りにいた先輩たちにアルトロポーファティに一斉攻撃をするように指示を出した。先輩たちは幹の内側に火魔法や雷魔法、アイテムを使った攻撃を繰り出した。アルトロポーファティは根っこをジタバタとさせていた。植物とはいえ痛みはあるのだろう。このまま押し切ればいけると確信したその時、幹の内側に生徒が見えた。


「生徒がいます! 攻撃をやめてください!」


 周りの人たちが攻撃をやめたのその瞬間、鷲田先生が作り出した保護バリアを足場に生徒に向かって一直線に向かって突き進んだ。スペチーフィカを足に発動させて保護バリアを蹴ったのでアルトロポーファティの根っこが反応するより早く生徒のところに辿り着いた。


「もう大丈夫だからな」


「うぅ……」


 生徒は意識を失っており動かなかった。それをいいことに生徒を抱き抱え再びスペチーフィカを足に発動させて幹の内側から離脱した。


「離れておけ!」


 鷲田先生がそう叫ぶと両手をアルトロポーファティの方に向けて火魔法を浴びせ続けた。その時間は数分にも及び火の色は白色にも近くなっていた。鷲田先生が火魔法を止めるとアルトロポーファティは動かなくなった。


「最後まで気を抜くなよ。まだ生きているかも知れないからな」


 鷲田先生がそう言い俺たちがまだ生きているか確認しに近くまで寄った瞬間、アルトロポーファティは死んだふりをしていたのか根っこを動かし俺たちを攻撃してきた。俺と鷲田先生は風魔法で避けられたが、他の人たちは根っこの攻撃で弾き飛ばされた。


「小出、二人でやるぞ」


「はい」


 俺は覚悟を決めた。万物潰崩(ばんぶつかいほう)忘れられた記憶の断片(アルカディアリベル)から取り出し両腕にスペチーフィカが発動させた。一撃でアルトロポーファティを木っ端微塵にするつもりでいると鷲田先生が言った。


「私が気を引くいけるな?」


「任せてください」


 俺の返事を聞いた鷲田先生は風魔法でアルトロポーファティの気を引くように周りを飛び回った。アルトロポーファティは鷲田先生に攻撃を繰り出した。その隙に樹上から渾身の一撃を叩き込んだ。その威力は地面まで割れるほどのものだった。そんな一撃をくらったアルトロポーファティは完全に潰れ地面にめり込んでいた。勝利を噛み締める前に根っこの攻撃で弾き飛ばされた人たちの救助に向かった。人によっては遠くまで飛ばされていたり、木にぶつかっていたりして救助するのに時間がかかった。全員怪我はしていたが、そこまで大きな怪我ではなく治癒魔法で安静にしていたらすぐに治るぐらいだった。一箇所に人を集めて待機していると、人の声が聞こえてきた。助けに来てくれた人たちの声だろう。


「もう大丈夫ですよ」


 治癒魔法で安静にしている先輩たちに伝えると先輩たちは申し訳なさそうに言った。


「後輩にカッコ悪いところ見せちゃったな……」


「ごめんなさいね。私たちが助けてもらう側になっちゃって」


「小出くんがいて本当に良かった。ありがとう」


 俺は何を言っても先輩たちのプライドが傷つくと思い黙っていた。すると、鷲田先生が言った。


「小出、強くなることを遠慮することなんてないぞ。先輩たちが自分より弱くて気まずいと思ってるだろうが、小出が悪い事なんて一切ない。上に立つ者は下の者の模範とならなくてはいけない。こいつらがダメダメなだけだ。それか、小出が上に立つ者になればいい。自分の姿を全世界に知らしめ、自分のようになれと世界中の下にいる者の模範となれ。そうすれば上の者は誰一人いなくなりこんな雰囲気にはならない。圧倒的な力を身につけ誰よりも上に立て。お前にはその資格と才能がある」


 鷲田先生の言葉に心がふっと軽くなった気がした。今までこんな状況になった事がなく理解していなかったのだろうが、今心が軽くなって気がついた。自分で自分の成長を抑制していた事に。今思えばじいちゃんや武帝に会うのも少し抑えていた。でも、これからはじいちゃんたちを超えるために強くなろうと思った。師を超えて更なる高みに至る事こそ弟子の本懐だと考えた。


「みんな大丈夫?」


 ユースが急いで駆けつけてきた。先輩たちを見て、鷲田先生を見て、背後にあるアルトロポーファティの残骸を見て、最後に俺を見て言った。


「流石健斗」


 ユースは事態を完璧に理解してその一言だけを言い放った。ユースは一切気まずそうにしている素振りがなく、俺が鷲田先生に言われて初めて気がついたことをユースはもう知って、持っていたと初めて気がついた。トールさんという頂点に立つ者からの教育の賜物だなと思った。

次回もお楽しみに


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