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アルカディアリベル  作者: 描空


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66話 鬱蒼のダンジョン①

 旅館で目を覚ますと朝の六時だった。クラスの男子で一番早く起きた。特にやることもなく旅館の中を散策でもしようと大部屋を後にした。朝六時ということもあり旅館内はシーンと静まり返っていた。ロビーから見える景色はとても綺麗で山に雲海が広がっていた。綺麗だなーと小学生みたいな感想を思い浮かべていると後ろから声がした。


「綺麗だな」


 塩田先生だった。塩田先生は寝起きとは思えない清々しい顔をしており俺よりも早く起きていたんだと瞬時に理解した。


「早起きは三文の徳ですね」


「そうだな。それじゃあ早起きした小出にだけ教えてやろう。今回の鬱蒼のダンジョンは名前だけあって物凄いジャングルだ。中には普通の動物もいるが、動物に酷似してるモンスターもいる。普通の動物だからと安心するんじゃなくもしかしたらモンスターかもって思うようにな」


 そう言うと塩田先生はその場を離れようとした。俺は塩田先生に問いかけた。


「そのモンスターっていうのは?」


「そこまで教えちゃ意味ないだろ」


 塩田先生はどこかに行ってしまった。普通の動物と酷似した見た目のモンスターなんて厄介極まりないと思ったが、競技会のダンジョン攻略で出会したクロコディウスも普通のワニのように見た目が酷似していた。おそらく、クロコディウスと普通のワニの祖先が同じで、ダンジョンに棲みつき適応し生き残った種がクロコディウスとなったのだろう。そう考えるとどんな動物でもモンスターになる可能性があり、ひと時も油断出来ないなと感じた。でも、ダンジョンという過酷な環境下で生き残る種だからそこそこの強さはないといけないだろうから、そんなに常に警戒してないといけない状況にはならないのかなとも思った。そんな考え事をしていると人の動く音が聞こえてきた。みんな起き始めたのだと大部屋に戻った。


「おはよう。早起きだね」


「おはよ」


 部屋に入ると透が話しかけてきた。挨拶を返し勝を見るとまだぐっすり眠っている。慣れない大部屋でこんなにも爆睡出来るのは攻略者としてメリットと捉えてもいいだろう。どこでもすぐに寝られることはそこまで珍しい能力ではないが、有していたらかなり便利で実用性の高い能力だから羨ましく思った。少しすると周りがうるさくなり勝も目を覚ました。


「おはよ」


「おう、おはよう」


 まだ意識がハッキリしていない様子の勝は少し面白かった。大きなあくびをして伸びをする様は誰であっても同じだが、勝がやると少し微笑ましかった。大きな猫みたいな感じがした。俺たちは旅館の朝ご飯を食べ身支度を済ませるとロビーに集められた。同行している先生は見慣れた顔ぶれでいつも通り鷲田先生が話し始めた。


「これから鬱蒼のダンジョンに向かう。道中山道を歩いて行くため入念に体をほぐしておくように。昨日、先生たちでダンジョン内に休憩施設を設営したため山道で疲労が溜まった者はそこで休憩するように。休憩しなくても大丈夫な者は必要な荷物を持ち各グループで行動しダンジョンを攻略すること。今からスビティスシィを担任より渡す。非常事態の場合はそれを吹き知らせること。余裕のある生徒は救助に向かうこと。また、一般の攻略者の方もいるので迷惑をかけないように。攻略者の方と共闘することもよしとする。それでは鬱蒼のダンジョンに向かう。各クラス二列で着いてくるように」


 鷲田先生が歩き始め俺たちもそれに続いて歩き始めた。しばらく山道を歩いていると後ろの方から疲労に喘ぐ生徒たちの声が聞こえてきた。鷲田先生は歩みを遅くすることはなく非情にも歩き続けた。俺たちのクラスは後ろのクラスほど辛そうにしている人は多くなく、辛そうにしている人をみんなで助け合いながら山道を歩き続けた。後ろのクラスは次第に遅れ始めてダンジョンに着く頃には数十メートルほど離れていた。


「小出のクラスは優秀だな」


 鷲田先生に褒められた俺たちは嬉しくなった。自分たちの努力を褒められることは誰であっても嬉しいが、鷲田先生に褒められるのは特段嬉しかった。普段から関わりのある塩田先生たちから褒められても嬉しいのだが、鷲田先生は時々しか関わりのない先生だから特別に思えるのだ。そんなことを思っていると後ろのクラスが到着した。


「それじゃあダンジョンに入る。ここで(たむろ)していると一般の攻略者の方に迷惑だからついてくるように」


 鷲田先生が一本の桜の木に触れると山肌の一部が機械的に二つに分かれ鋼鉄の両開きの扉が現れた。


「「「おー!」」」


 俺たちは子どものように歓声を上げた。鷲田先生がニコッと笑い扉を開け中に入った。俺たちは鷲田先生について行き鬱蒼のダンジョンの中に入った。中に入ると青々とした芝生、木々の密度、鳥の鳴き声に人間が脳内で森を思い描いた際に現れるような森が広がっていた。ある種の幻想郷みたいな感じのような気もした。鷲田先生が左に曲がり俺たちも左に曲がった。そこから少し歩くと仮設住宅のような休憩施設に着いた。俺たちは鷲田先生に支持された施設の前で待った。他のクラスも施設の前に着くと鷲田先生が話し始めた。


「事前に指示したようにここからはお前ら次第だ。ダンジョンに慣れることを重視するように。先生たちが巡回し始めているので自由に行動するように。本日から一週間気張って授業に取り組むように。以上」


 俺たちのクラスはみんな荷物を置き早速ダンジョン攻略を始めようとしていたが、他のクラスは休憩する生徒としない生徒で半々ぐらいだった。身体能力、体力は個人差があるだろうから仕方ないところが大きいが、一年生の間にサボっていたツケが回ってきたなと思った。


「それじゃあみんな攻略始めるからペース早かったりしたら教えてね」


「「「はい!」」」


 ユースの言葉にグループのみんなが返事をした。俺たちも行こうかと透と春奈に合図した。二人は頼もしい表情で頷いた。ユースのグループが森に入るのを確認した後、俺たちも続いた。クラスの他のグループは俺たちより先に攻略を始めており俺たちのクラスは全員攻略を始めた。


 攻略を始めてしばらくの間はモンスターの一匹もいなかった。時々上空を鳥が飛んでいるぐらいだった。そんな時、俺たちの前にいるユースのグループから事件性のない女子の叫び声が聞こえてきた。俺たちは疑問符を浮かべた。とりあえず何があったのか確認するために近づいた。すると、クラスの女子たちがウサギを撫でていた。こんな場所にウサギなんかいるのかと不思議に思ったが、アフリカなどにもウサギは生息しているためそんなに不思議じゃないのかなとも思いよく分からなくなった。ともかく緊急事態じゃなくて良かったと胸を撫で下ろした。しばらく女子たちがウサギを構っている間に俺たちは先を確認するために行動した。目の前には木々が無限に広がっているように思え辟易した。


「これなら洞窟のダンジョンの方がいいね……」


 透がそう言うと俺と春奈は肯定した。森林浴ということならいいのだが、いつモンスターが飛び出してくるか分からない状況だとストレスにしかならない。そんなことを思っていると草むらがガサガサと揺れた。俺たちはすぐに警戒した。でも、その草むらから現れたのはただのリスだった。そのリスは俺たちを見るとすぐに木に登り身を隠した。俺たちは安心し一息ついた。休憩施設の近くだからそこまでモンスターはいないだろうし、奥に行かなければモンスターは出ないダンジョンなんだと思った。

次回もお楽しみに


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