24話 杖の正体
天気のいい昼下がり。ベッドでゴロゴロする土曜日。いつも通りの休日を過ごしていた。その時ふと思い出した。選抜戦で一位になった報酬の杖のことを。じいちゃんが助言してくれこの杖を選んだが、じいちゃんに話を聞きに行ったりしていない。忘れていると全然気にならないのに思い出したら無性に聞きたくてしょうがなくなった。俺は忘れられた記憶の断片を手に取りアペルタと唱え中に入った。その時、このままだと武帝の所に行ってしまうんじゃないかと焦った。咄嗟にじいちゃんに教えてもらっていたレディトスと唱えた。レディトスは戻る時に唱えろって言われていたからこれでじいちゃんの所に行けてくれと祈った。目を開けるとそこにはじいちゃんが大の字で寝っ転がっていた。武帝の所に行かなくてよかったと胸を撫で下ろした。
「じいちゃん、来たよー」
「やっとか、待ちくたびれて寿命が尽きてしまうかと思ったぞ」
「そんな縁起でもないこと言わないでよ」
そんな世間話をし、早速本題について聞いた。
「それよりじいちゃんが助言してくれたこのデカい杖何の?」
俺が杖を見せるとじいちゃんは目を見開いて言った。
「そうじゃそうじゃ忘れておった。これはむかーし儂が使ってた杖じゃ。健ちゃんになら扱えると思って言ったんじゃ」
「へーじいちゃんのなんだ」
そんな事を思っていると不思議に思った。俺は学校に忘れられた記憶の断片を持って来たことはない。なのに、なぜあの時じいちゃんの声が聞こえたのか。気になったら答えを知らないとムズムズするのでじいちゃんに聞いた。
「ねぇなんで俺に助言出来たの? 家から学校まで距離あるのに」
「ははは、距離なんか重要じゃない。重要なのは持ち主かどうかじゃ。ここにいる全ての者は健ちゃんに干渉する事ができるが、親しくないし健ちゃんが持ち主だということも知らない。じゃから干渉しないんじゃ」
「へーそれじゃあ選抜戦の時にも助言出来ようと思えば出来たの?」
「うむ。じゃが助言したら健ちゃんの為にならんと思って何も言わないようにしておったんじゃ」
「納得した。ありがとう。それより杖の事について教えてよ」
「分かった。それじゃあ杖を貸してくれ」
俺がじいちゃんに杖を手渡すとじいちゃんは杖を確かめるように手で触り少し持ち上げ地面を突いた。じいちゃんは頷き言った。
「何も変わっておらんな。それじゃあ説明して行くぞ。この杖の名前は……何じゃったっけ?」
「えー……」
「すまんなじいちゃんだから物忘れが」
「それじゃあ俺たちで名前付けようよ。この杖どんな性能なの?」
「この杖はな、マナを何倍にも増幅させて魔法を出現させるじゃじゃ馬のような奴じゃ。そんな奴じゃからなー……どんな名前がいいじゃろうなー……」
俺とじいちゃんは考えた。マナを何倍にも増幅させてじゃじゃ馬みたいな性格。暴れん坊だけど高性能。扱いづらいが使いこなせれば一級品。そんな杖にピッタリの名前なんて無いと思っているとじいちゃんが言った。
「黎杖尊大じゃ。此奴は見てくれは質素なただの杖に過ぎんが、その正体は傲慢で扱いづらく手に余る性能。その性格からこの名前が付いたんじゃ」
「杖の才能に恥じないカッコイイ名前だね」
「それはそうなんじゃが、本当に扱いづらい杖でな儂も此奴は好んで使わんかった。最終的に何らかの運命でここまで渡ってきたんじゃ。健ちゃんが上手く使ってやってくれ。そのために教えられることは全て教える。じゃから此奴を使ってやってくれ」
「分かった。俺頑張るよ!」
そこからじいちゃんに黎杖の扱いのコツや必要なマナがどれぐらいか教えてもらった。試しにごく僅かなマナを杖に集中させてみた。じいちゃんに貰った前の杖だと本当に小さな魔法しか出現させられない量のマナだ。これで黎杖がどれほどマナを増幅させるのか把握できる。すると、手のひらサイズの火の玉が出現した。あまりのマナの変換効率に目を見開いた。
「じいちゃん、これ結構良くね? マナ全然使わなくて済むじゃん」
「それはいいんじゃがな、少しでも多くのマナを使えば出現する魔法の大きさが予想できないんじゃ。試してみ」
俺はさっき出現した手のひらサイズの火の玉に必要とするぐらいのマナを杖に集中させた。すると、バランスボールほどの大きさの火の玉が出現した。変換効率が良すぎるから力加減がしづらいのは事実だ。だが、ダンジョン攻略をする際にはもってこいなのでは無いかと感じた。数の多いモンスター相手に少量のマナで済むし、マナを集中させる時間もかからない。悪い点なんて無いように思った。
「これ全然使いづらくないじゃん」
俺が思った事をそのまま言うとじいちゃんが言った。
「それは健ちゃんのマナ感知が異常じゃからな。普通の人が使えば必要以上にマナを集中させてしまい自分たちに被害が出るっていうこともあるじゃろう。試しにさっきと同じサイズの火の玉作り出せるか?」
俺はそんなこと簡単だとほとんど同じサイズの火の玉を出現させた。じいちゃんは少し驚き言った。
「あのな健ちゃん、健ちゃんは今何の苦労もなく同じ火の玉を出現させたがな、普通の人がこの杖を使うとほとんど同じサイズの魔法を出現させるのは至難の業なんじゃ。普通の人が目隠しでコップに水を注いで大体これぐらいかなって感じでマナを調整してるのを、健ちゃんは普通に見ながらコップに水を注ぐようにマナを調節してるぐらい違うんじゃ。じゃからこのぐらいかなって思っても多かったり少なかったりする。じゃから誰もこの杖を使わないんじゃ。理解してくれたかの?」
「そういうことだったんだ。だからみんな別の扱いやすい杖を使うわけだ」
「そうじゃ。今のうちに黎杖に慣れておくようにな。大切な友達を傷つけたくないじゃろ?」
「うん。何かダメなところがあったら都度言ってね」
そこから俺は飽きるまで魔法を使った。めちゃめちゃデカい火の玉を出現させたり、火の粉ぐらい小さな火の玉を出現させた。火魔法に飽きると次は水魔法を使った。ウォータースライダーのように大量の水で俺とじいちゃんを流したり、滝みたいにしたり、雨を降らせてみたりした。じいちゃんは俺を褒めるばかりで指摘してくれなかった。俺はじいちゃんに指摘するところは無いのかと聞いたが、じいちゃんは無いとだけ言い続けるように指示した。俺は完璧に魔法を使えていると思い次は風魔法に移った。じいちゃんを風魔法で吹き飛ばしたり、じいちゃんが出現させた大きな焚き火を風魔法で吹き消したりした。俺とじいちゃんは遊び疲れた子どものように地面に寝っ転がった。実際に疲労は溜まっていないが、心が満たされ満足していた。
「楽しかったね」
「そうじゃな」
「ねぇじいちゃん、他の魔法も教えてよ。爆発魔法とかさ」
俺は学校でアイテムと近接メインで教わっているため魔法についてあまり詳しく無いのだ。学校で教わらないのはこうやってじいちゃんに教えてもらえるからだ。
「そうじゃな。そろそろ新しい魔法も教えるかの。健ちゃんはどんな魔法が使いたいんじゃ?」
「うーんとね……」
じいちゃんに言われて気がついたが、俺には使いたい魔法が思いつかない。もちろん爆発魔法とかの派手な魔法は楽しそうだが、使ってみたいかと言われればノータイムで答えられるほど使ってみたいとは思わない。どちらかと言えば近接戦闘をサポートできる魔法を使ってみたいという結論が出た。
「サポート系の魔法」
「わ、儂、サポート系苦手なんじゃ」
「あっ……なんかごめん」
「儂の方こそごめんな」
何とも言えない空気が流れたが、すぐにじいちゃんがその空気を変えた。
「さっき言ってた爆発魔法ならじいちゃん教えられるぞ!」
「じゃあ爆発魔法教えて!」
俺はじいちゃんに爆発魔法の原理からコツまで教えてもらった。爆発魔法は火魔法を進化させたような魔法で火に爆発のイメージを追加することで爆発魔法になるそうだ。そして、コツとしては自分が出現させたい魔法より気持ち大きい爆発をイメージすることらしい。爆発魔法は一度火魔法に変換してから爆発魔法に変換するらしく効率が落ちるそうだ。でも、黎杖でそんな事したらとんでもないことになるからと小さいのをイメージするように釘を刺された。俺は言われた通り爆竹ぐらいの爆発をイメージしてみた。すると、手榴弾ぐらいの爆発が出現し俺とじいちゃんはビックリして耳を塞いだ。
「やるなら事前に言ってくれ。ほとんどない寿命が縮むじゃろ」
「ごめんごめん。でも、俺、爆竹ぐらいのイメージだったのにこんなに大きくなるんだね」
「そりゃ黎杖じゃからな。此奴の性能は健ちゃんが一番知っておろう」
「そうだった。それじゃあ今日はここら辺で戻るよまたねじいちゃん」
「サポート系教えられるようにじいちゃんも頑張るから期待していいぞ」
「本当!? じゃあ期待してるねバイバイ」
「バイバイ」
キールと唱え戻ってきた。じいちゃんがサポート系の魔法を教えてくれるようになるのが楽しみだ。俺もその間にもっと成長してじいちゃんを驚かせてやろうと意気込んだ。
ゆっくりお待ちください




